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北海道の畑からパンへ。国産小麦に込めた情熱【エディターズOKINI】

北海道・十勝エリアの小麦農家と十勝で人気のベーカリー3店のご紹介!

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北海道小麦ツアー

北海道・十勝エリアは、国産小麦の一大産地。訪れた6月中旬は小麦がしっかりと実をつけ、7月中旬から始まる収穫に向けてぐんぐんと成長している最中。今、収穫前の北海道の小麦農家を訪れるパン職人が実に多い。その理由とは? 十勝の人気ベーカリーも併せてご紹介。

小麦畑を訪れるパン屋さんたちが増えている!

人気ベーカリーが夢中な小麦農家

最近、べーカリーに足を運ぶと、プライスカードに「国産小麦使用」だけでなく、「◎▲◎農場のキタノカオリ」や「北海道◎◎さんのライ麦」といった、小麦農家の名前や産地が記されているのを目にする機会が増えてきたはず。

ここ数年、国産小麦を使用するパン職人が増え、その勢いはますます加速中。それに合わせて製法の工夫だけでなく、小麦の産地や生産者の顔をパンの個性として打ち出す店も増え、「どこで、誰が作った小麦なのか」への関心が高まっています。そうしたなか、自分が使っている小麦粉がどこでどのように育てられているのかを知るために、実際に小麦畑や農家さんを訪れるパン職人が急増中。

今回、「新麦コレクション」が主催する小麦畑見学会に、『エル・グルメ』でもおなじみの東京・自由が丘にある「セテュヌ・ボンニデー」の有形泰輔さんや栃木県那須塩原の「ショウパン アルチザン ベイクハウス」の平山翔さん、さらには札幌で人気のラーメン店やうどん店の店主さんたちと参加してきました。実は同じ頃、東京・南大沢の「チクテベーカリー」や代々木上原の「フミグラフィコ」、仙台の「あくつさんち」、名古屋の「涼太郎」や鎌倉の「ブレット イット ビー」など人気店のシェフたちが続々と北海道を訪問。

さて…今回北海道行きを誘ってくれた平山さんと有形さんも6~7年前から北海道だけでなく、自店で使用している小麦農家を訪ね、小麦の生育状況を見たり、農作業を手伝ったり、自らが焼いたパンを持参して意見交換を重ねているそうです。

有形さんは「生産現場に行くことで、材料や原料から小麦は食材なんだという考えになりました」といい、「同じ品種でも土地によってキャラクターが変わることを知り、それぞれに合わせた製法を考えることで技術もレベルアップします。さらに顔が見える小麦を使うことによって、農家さん、私たちパン職人、食べてくれるお客さんすべての価値観を上げることができると思ってます」と語ってくれました。また平山さんは「喜びを共有し、感謝を伝えるため。お客さまがパンを買って『ありがとう』と笑顔で言ってくれたり、おいしさをほめてもらえた時の喜びを、農家さんとも分かち合いたいから」とも。

小麦は想いをつなぐ作物

北海道小麦ツアー

北海道・十勝で訪れたのは3タイプの農家。前田農産は小麦やとうもろこしなどを149ヘクタール超の畑で栽培する、126年続く老舗。「キタノカオリ」「春よ恋」「きたほなみ」「はるきらり」など、北海道を代表する小麦を栽培。4代目の前田茂雄さんはアメリカで農業経営を学び、土壌改良や肥料調整で小麦の品質向上に尽力。全国のベーカリーなどに「生産者の顔が見える小麦」を販売。高品質で安定した供給力を誇り、東京はもちろん、関西や九州など全国の人気ベーカリーで使われています。近年は電子レンジで作るポップコーンにも力を入れ、都内でも人気を博している。

次に訪れたのは、全国のベーカリーにファンを持つ自然農法で小麦を育てている中川泰一さんの中川農場。中川さんは東京で就職後、「人の役に立つ仕事を」と実家の小麦畑を継ぎ、10年以上をかけて有機栽培へと転換。化学農薬不使用の小麦栽培は無謀とされているなか、数えきれないほどのトライ&エラーを重ねて有機認証を取得。今も「自然の力に任せる」を信条に畑を守り続けています。ライ麦やスペルト、現代小麦を混ぜた「ブレドゥポピュラシオン」や、約8年前に緑肥畑(作物の後に土を整える畑)で見つけたみたことのない小麦らしき麦を交配させて作り出した「スピリチュアルウィート」など個性的な小麦を手作業で栽培している、唯一無二の農家さん。

3軒目は北海道・十勝の本別町にあるオフイビラ源吾農場へ。3代続く農家で、現在は篠江康孝さんと息子の拓夢さんが有機栽培で小麦や豆類、じゃがいもを栽培。小麦は「キタノカオリ」「きたほなみ」が中心で、「ブラックアインコーン」や「ブラックエンマー」といった古代小麦も栽培しているのが特徴です。家畜の堆肥や自家栽培の緑肥を活用し、地域資源を循環させる「低投入型・持続可能な農業」を実践。「キタノカオリ」はもちもち食感とミルキーな甘みで人気ですが、低温や収穫期の雨に弱く、有機栽培は希少。とはいえ篠江さんは「自然の力を借り、この土地ならではの風味を届けたい」と手間を惜しまず育てています。

小麦は品種改良に10年、農家が丁寧に育て、製粉所で製粉され、パン職人の手でパンになり、私たちの元へ届きます。「ショウパン アルチザン ベイクハウス」の平山さんは「農家さんに会い、畑で感じた感動や喜び、製粉会社の方々の熱意を共有することが、自分のお店の力を最大限に引き出す原動力。農家訪問は初心に戻れる場所」と話してくれました。シェフたちが農家を訪れるのは、対話を重ねた想いをパンに込め、私たちにおいしさとして届けたいという気持ちからかもしれません。

写真上は「kanou seipan」の加納さんが送ってくれた収穫直前の中川農場の様子。右下はオフイビラ源吾農場の入口に立っているかかし、左下は前田農産の6月の畑。嬉しいことに、どの農家さんも2025年の小麦の収穫を無事に終えたとのこと。10月には「新麦」として、多くのベーカリーでパンになって登場するはず。

その前に、北海道・帯広エリアの十勝産小麦を使ったベーカリーをご紹介。ひと足先に、十勝産小麦のおいしさを体験してみませんか?

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麦音/帯広市

北海道

麦の音が聞こえるベーカリー

麦の種をまく音、芽が出る音、麦の穂が風に揺れる音、収穫の音。石臼で粉を挽く音に、パンをこねる、焼き上がりの音……そんなたくさんの音が響くお店、「麦音」。

「麦音」は1950年に北海道・帯広で創業した「満寿屋商店」のフラッグシップショップ。広大な敷地にはベーカリーとカフェ、ウッドテラスに芝生の庭が広がり、小麦畑では地元高校生と共にはるきらりを栽培。さらに屋根に付いた風車で店内の石臼を回して自家製粉も行っている「パン作りをもっと身近に感じて欲しい」という思いが詰まったパンのワンダーランドです。

お店に入るとまず目に飛び込んでくるのが、焼き立てのバゲット、カンパーニュ、メロンパン、クロワッサン……その数なんと約100種類。魅力的なアイテムが多すぎて、トレイを片手に店内をうろうろしてしまうこと間違いなし。

「麦音」のこだわりは地産地消。全商品に使う小麦粉は前田農産をはじめとする十勝産100%で、ほかの素材も地域の恵みをふんだんに取り入れている。商品ラインナップから地域の食材を地域のために、という姿勢が伝わってきます。

なかでもおすすめが写真下左の「オドゥブレ 十勝」。北海道十勝産のキタノカオリに水分量115%を加え、もっちりと仕上げた食事パンで、小麦の甘みがぐっと引き立ちます。自宅で卵とマヨネーズのフィリングを用意してサンドイッチにしてみたら最高。なめらかさが半端なく、香りの良さにも驚き。

もうひとつ、写真下右の「麦音メロンパン」も見逃せません。上のクッキー生地はサクッと軽く、ブリオッシュのふんわりとした口どけと好相性。甘さ控えめで口当たりなめらか。人気商品というのも納得。

十勝の恵みを挟んだ、至福のバーガー。

a hand holding a cheeseburger with lettuce tomato and sauce

そのおいしさに手が止まらなかったのが、「豊西牛チーズバーガー」。これもまた、十勝産のオンパレード。豊西牛は「トヨニシファーム」が育てるブランド牛で、脂は少なく赤身ならではのうま味がしっかり感じられます。

その肉を贅沢に使ったパティは想像以上にボリュームたっぷり。チーズソースがとろりと絡み、野菜もシャキシャキで食べ応え抜群。やっぱり注目すべきはバンズ。十勝産の小麦粉を使ったほんのり甘みのあるエアリーな生地がパティやチーズと絶妙にマッチ。しっかりボリュームがあるのに、不思議とぺろっと食べきれてしまう。天気のいい日はウッドテラスでぜひ味わいたいバーガーです。

麦音

北海道帯広市稲田町南8線西16‐43
tel/0155-67-4659
営業時間/6:55~18:00
無休(年末年始はお休み)
Instagram/ mugioto 
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toi/音更町

北海道麦ツアー

畑のなかの薪窯ベーカリー

帯広の中心地から車で40分ほど。見渡す限り小麦畑が広がる風景。その一角にぽつんと現れるのが「toi」。しかもすぐそばには「中川農場」の畑があるという好環境の中で「toi」のパンは生まれます。使用するのは十勝産のオーガニック小麦。

店主・中西宙生(なかにしひろお)さんは関西出身。大手のパン屋で働いたのち、ヨーロッパでも修業を積み、帯広の人気店「風土火水」の立ち上げに関わったことをきっかけに、家族で北海道への移住を決意。さらに中川農場の小麦と農場主・中川さんの麦作りに対する想いに惚れ込み、その近くで2019年に店を構ました。

中西さんの作るパンは素材への敬意にあふれています。中川農場などから仕入れた有機栽培の小麦粉を自ら製粉して全粒粉にすることで余すことなく使い切り、自家培養発酵パン種(いわゆる自家製酵母)でじっくり発酵させ、薪窯で力強く焼き上げるパンは、小麦の“芯”を味わうような深みがあります。

自家製粉ならではのまろやかな香ばしさと、やわらかな口あたりが共存するパンは、どれもかむほどに味わいが口いっぱいに広がります。店に並ぶのは約20種、ハード系中心のラインナップに、ハード系好きなら前のめりになること必至。

香りに驚き、香ばしさにとろける、記憶に残るパン

北海道小麦畑ツアー

お店の小さな入口の扉を開けると、高い天井に白を基調にした店内が現れます。まるでフランスの田舎にある一軒家のようなたたずまいで、奥の作業場にはレンガ造りの薪窯が構えています。

おすすめは購入してすぐに、店前のベンチで”即食い”してしまったふたつ。ひとつは絶賛マイブーム中のスコーン。中川農場で栽培されたスペルト小麦を使い、滋味深い味わい。ほろほろと崩れる食感と、口いっぱいに広がる粉の風味がたまりません! 甘さ控えめで粉のうま味をじっくり堪能できます。すぐさま店内に戻って追加で購入し、奥様が作るジャムも一緒にお持ち帰り。家で楽しんだのは言うまでもありません。

もうひとつが「クロックムッシュ」。タイムをきかせたベシャメルソース(これがハッ!とするおいしさ)をカンパーニュでサンドし、チーズと黒こしょうを効かせてバリッと焼き上げたその味は、大人のための一品。黒こしょうが全体の味わいの輪郭を際立たせ、食べ終えてもタイムの余韻が長く続く。ワインを片手にいただくべきだったと、深く反省しました。

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余ったパンから生まれる、新たなおいしさ

北海道

カウンターに並ぶハード系食事パンのなかで特に目を引いたのが、「toiのパン」。余ったパンをパン粉にして、全粒粉100%の生地に混ぜて焼き上げるというサステナブルな一品。丸いフォルムは武骨で力強く、素材を使い切るという中西さんの思いがにじみます。

「余ったパンによって味が少しずつ変わるんです。それも楽しみにしてもらえたら」と中西さん。薄くスライスしてチーズをのせても、厚めに切って食事と合わせても。どんな食べ方でも、じんわりと深い余韻が残る、そんなパン。

このパンに限らず、中西さんのパンはすべて、小麦そのものの持ち味がしっかりと息づいています。北海道の大自然を感じながらパンのおいしさを満喫して!

toi

北海道河東郡音更町上然別6線23-4
営業時間/10:00~16:00
定休日/月、火曜
Instagram/__toi___
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kanou seipan/帯広市

北海道麦ツアー

十勝産小麦を使った骨太ぞろいのパンに出合える

十勝産の小麦の力強さを存分に味わいたいなら、「kanou seipan」も外せないお店。幹線道路から1本入った住宅地に佇む、緑の外壁と赤い扉が目印です。その扉を開けた瞬間、ガリッ、バリッと焼き込まれた武骨なハード系の食事パンがずらりと並び、その光景に圧倒。都内でもなかなかお目にかかれない“攻めた”ラインナップに、胸が高鳴ります。

店主・加納雄一さんは帯広出身。関西や地元帯広のパン屋で約20年研鑽を積み、2022年にこの地に店をオープンさせました。なぜこのハード系メインのスタイルを選んだのかを尋ねると、「すぐ近くには帯広の老舗『満寿屋ぱん』があって、クリームパン、メロンパン、クロワッサン、サンドイッチ……王道アイテムが揃っている。だったらうちはタイプ違いでいこうと思ったんです」と加納さん。

小麦は前出の中川農場やオフイビラ源吾農場、庄司農場といった、十勝を代表する生産者から。古代小麦の一種であるブラックアインコーンやブラックエンマーなど、希少な品種も使い、単一またはブレンドで粉の個性を引き出します。商品ラインアップの中心はカンパーニュで、全粒粉入りの茶色系。その見た目に「硬そう」や「酸っぱそう」と想像しがちですが、酸味は穏やかで、ガリッとした皮としっとり生地のコントラストが絶妙。

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粉のパワーをパンで味わう

北海道パンツアー

加納さんのパン作りはシンプル。小麦粉と水、塩、自家培養パン種のみを使い、低温でゆっくり時間をかけて発酵させたのち、オーブンで一気に焼き上げます。「粉の特性や味わいごとに水分量を変えて個性を引き出します」。その言葉どおり、どのパンも小麦そのものの力強さが際立ちます。

例えば、音更町・中川農場の「スピリチュアル ウィート」を使った「中川さんのspiritual wheat」(写真左上)は、口に入れた瞬間、青々とした香りが広がる一品。「ロブロ」(写真右上)は同じく中川農場の自然栽培ライ麦を自家製粉し、粗挽きのまま練り込んだもの。もっちりした弾力と口にした途端ほどけるような軽やかさが共存し、ライ麦特有の酸味は控えめ。ほのかにフローラルな香りと甘みが広がり、「ライ麦=酸っぱい」の固定概念を覆してくれます。どんな食材とも合い、アレンジの幅が広いのも魅力で、まさに“ロブロ入門”に最適な逸品。

「オフイビラ源吾農場」からは、古代小麦の一種であるブラックアインコーンと、その派生種といわれるブラックエンマーを仕入れ、「しのえさんのブラックアインコーン」(写真左下)と「しのえさんのブラックエンマー」(写真右下)として焼き上げます。食べ比べれば、現代小麦とは異なる野性味が口に広がり、甘みやうま味のあとに、じわっと熟成チーズのような酸味を実感。全粒粉とも違う、骨太な味わいはしょうゆベースの料理にも寄り添う包容力があり、どんな食材も受け止める懐の深さに深くうなずきます。

加納さんのパンは料理と合わせてこそ真価を発揮する骨太なパン。カンパーニュにオリーブオイルを垂らしたり、チーズやハムを挟んだりすれば、おいしさの幅がより広がります。さらに嬉しいのは、どのパンからも十勝産小麦の力強さがしっかりと伝わってくること。噛むほどにじんわり広がる甘みや香ばしさは、素材のなせる技。北海道の恵みをダイレクトに味わえるパンを求めて、お店を訪れずにはいられません!

kanou seipan
北海道帯広市西15条南12-1-48
営業時間/10:00~、日曜7:30~(売り切れ次第終了)
定休日/月・火曜
Instagram/kanou_seipan

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