連載パン人Vol.5「チクテベーカリー」北村千里シェフ
自家培養発酵種と国産小麦使いを続ける、愛されベーカリー

日本のパンの進化に大きな影響を与えたゲームチェンジャーにじっくりと話を聞く連載。今回のパン職人は生産者の思いをパンに込める、小さな街のパン屋さん。
“好き”が拓いた酵母の扉

ただ純粋な”好き”という気持ち。愛おしむ。見えない酵母たちを、小麦の生産者を、それが育つ畑を、ご近所の人たちや、その先にパンがのぼる食卓の風景や家族のことを。
イノベーションという言葉を使うとおおげさに聞こえるかもしれない。でも、北村さんが”好き”という気持ちをこつこつと積み上げることで、自家培養発酵種(いわゆる天然酵母)パンの新しい扉を開いたのだ。
北村千里さんは「チクテベーカリー」のオーナーシェフ。美大を卒業後、鎌倉の「cafe Takaraya」などで修業し、2001年、町田市多摩境で「チクテベーカリー」を立ち上げる。実家での営業後、2013年八王子市南大沢に移転。開店前から長蛇の列ができる大人気店に。自家培養発酵種でありながら、カンパーニュのようなプレーンなパンだけではなく、甘いパンから本格的なサンドイッチまで老若男女誰でも食べたいパンがきっとある豊富なバリエーションが魅力。また、小麦畑にスタッフとともに毎年通い詰めるほど、生産者を大切にする。直接取り寄せた小麦を、自家製粉も行い、小麦畑の風景や生産者の顔が見えるような、テロワールが表現されたパンに仕立てる。
人生を変える、カンパーニュとの出会い

アーティストになる夢を追った学生時代。その夢が遠くかすんでいくとき、別の夢が現れた。
「就職氷河期のときで、就職先がなくて。映像に興味があったんで、8㎜フィルムの学校に通っていました。でも、映像で食べていくのもむずかしくて、TV番組『料理の鉄人』の雑用係をアルバイトでやってた時期があって。イベントの時に大きい食事パン(カンパーニュ)をディスプレイしたんです。そうしたら、なんかパンの迫力に、パンってすごいなって思って。パン屋さんでパンやってみようかなって思いました」
当時、アルバイトしていた「アフターヌーンティールーム」のベーカリーで求人募集してるところを探して申し込んだ。
「大好きなパンが毎日こんなに食べれるって、それだけでも幸せだったのと、生地がオーブンの中でふくらんで焼けていく姿だけでも毎日感動しまくってましたね。もう染まってしまったというか、すごい! おもしろい!って」
そんなとき、一生を決めるパンに出会う。自家培養発酵種で作るカンパーニュだ。
体に負担のかからないパン作り

「お昼にもパンだし、残ってロスになったパンも、朝も食べるし。そしたら、すごく体調が悪くなっちゃって。甘いパンとかリッチなパンが多かったので、お腹も疲れるし体も疲れるし。パンって体にいいのかなって、疑問が湧いてきたんです。
そんなときに、『ルヴァン』(渋谷区富ヶ谷にある日本初のサワードゥ専門ベーカリー)のパンに出会って。バターとか副材料が入ってなくても、粉と塩と水と酵母で、こんなにいい香りで、こんなにおいしいパンがあるんだって衝撃を受けて。しかも、『ルヴァン』のパンはいくら食べても体がすごく楽だったんですよね。パンを作るならこのパンだなって。これだったら一生やれそうって思いました」
北村さんは「ルヴァン」で修業しようと考えたが、当時の「ルヴァン」には志望者が詰めかけていた。引っ越しまでして「ルヴァン」に通い詰めたが、働くことはできなかった。でものちに、それが北村さんだけの道を進むことにつながる。
自家製発酵種への挑戦

北村さんは鎌倉の自家製発酵種のベーカリー「たからや」(今のキビヤベーカリーの前身)で働きながら、自宅でパンを研究した。当時、インターネットもない時代。イーストを使わずに独学でパンを作るのは、とても難しかった。
「最初に酵母で焼いたパンはほんとにゾウリムシみたいでした(笑)。本で見ても、正しい情報なのかよくわからない、本当に未知の世界だったんですよね」
酸味があったり、硬かったりという”天然酵母パン”がまだまだ多かった時代。
「こんなパンがいいんだよなみたいなのはあるけど、どこで学べばいいのかわからない。とにかく自分で手探りでやるしかない。検証して、あそこでこうなっちゃったのはこのせいじゃないか? じゃあ、こうならないように次はこうやってみようって。それでも、あんまり変化がないから、じゃあこの理由じゃないか? っていうのをずっとやってたんですよ」

自宅でできあがった食べ切れないほどのパンを、販売させてくれる人がいた。「掛け持ちでバイトしていた鎌倉のカフェの店長も協力的で、『パンを作ってるチクちゃんです。今度パン食べてみてください』と、いろんな方に紹介してくれて。そうしたら雑貨屋さんとかが『うちまで届けてくれる?』って。自転車で鎌倉を走って配達に行って、という生活をしていました」
パンによって誰かとつながり、誰かの役に立つ。そんな充実した日々をはじめて得た。
「買ってもらえるって、もう本当に夢のようでした。よそから一人でぽつんと来た街なのに、みなさんがパンでつなげてくれて、一人なんだけど、一人じゃないような気がしました。自転車で走っていると、『チクちゃん、今日のさとうさんは?(発酵種の名前)』『配達どこ行くのー?』とか言ってくれることが嬉しくて、今はがんばる時なんだなって、本当に没頭してやってました」
小麦農家とつながるパン作り

いまもカンパーニュを焼くために育てている発酵種は、この頃に起こしたもの。
「全粒粉の種は、農林61号(主に北関東で昔から作られている小麦)をメインで継いでいます。その農林61号は、「cafe Takaraya」さんに紹介していただいた群馬県高崎市の農家さんのものでした。いまは太田市の自然栽培の圃場(農地の総称でここでは小麦畑のこと)で、製粉出荷など全ての業務を引き継いでくださった上原さんという農家さんからいただいています」
農林61号といえば、地粉と呼ばれる、うどん用の粉。パンがふくらみにくく、穀物の香りがして、よい意味で垢抜けない。でも、北村さんがカンパーニュを作る上でなくてはならない核心なのだ。
ハード系=酸っぱいのイメージを変える

「いろんな小麦を使って、種の種類も増やしていますが、でもいまだに、最近また自分で食べて一番ほっとするのが、全粒粉の種のカンパーニュ。こういうパンがやっぱりいいんだなーって思う。流行りと逆行なんですけど、ずーっと変わらないような形のパンで、冷暗所なら1週間くらいはカビないし、保存食にもなる。これからの高齢化社会で、お年寄りも支えられるんじゃないかとか、思ったりしています」
「私がパンをはじめた当時、国産小麦で作りたいと思っても、選択肢がすごく少なかった。北海道だと『ハルユタカ』。『ルヴァン』のような発酵種のパン屋さんだと、農林61号か南部地粉。でも、農林1本じゃパンを作るのがむずかしくて。『天然酵母って体にいいけど硬くて酸っぱい』って思われていて、そうじゃないものを作りたかった」
どうやったらもっとみんなに食べてもらえるパンを作れるのだろう。葛藤し、でもあきらめず、努力をつづけた。
全力で突っ走ってた日々

独立して最初に販売をはじめたのは、友人の営む「チクテ カフェ」の店先。実家を改装した多摩境の工房で徹夜でパンを焼き、眠りそうになり目をこすりながらカフェのあった下北沢まで車で運び、居眠り運転で数回の自損事故も経験。
「全然無傷で生きてるから、たぶん相当ツイてるんだと思うんです。あまりに運が良すぎて、だからもう生きるしかないなって感じでした。やるしかないなっていうか」
やがて多摩境の工房でパンを売るようになるが、当時はまだカンパーニュのようなパンは一般的ではなかった。
「大きいパンばかりで、はじめての方が買うわけもなく、パッと見てサーッて帰る。店なのかなんなのかもわからないような店で、ドアを開けるだけでも相当な勇気だったと思うのに(笑)。パン屋さんにウキウキして来てくれて、中を見たら買える物がないって、逆に申し訳ないんじゃないかと思って。それでちっちゃいパンとか、いろいろ考えていきましたね」
クリームチーズたっぷりのハード系

現在の人気商品の多くは、その頃できたものだ。プルーンとクリームチーズを包んだ「プチプリュノー」、ドライマンゴーとクリームチーズの「マンゴー プチ」。
「チーズはとりあえず入れたら売れるって分かった(笑)。でも入れるんだったら、『チーズどこ』っていうパンじゃなくて、『チーズどーん!』 っていうのを作ろう、びっくりするぐらい入れようって。
『パンドミ フィグ』もドライフルーツを入れたパンです。カンパーニュのような、バターとか入ってない、粉、塩、水、酵母のシンプルな生地を作っていました。これはパリのパン屋さんにいた友人が帰国の際にいつもお土産に買ってきてくれたパン。今はお店には無いのですが、これも思い出のパンです」
「プレーンな食事パンって本当に売れなくて。それってなんでかなって思ってたら、食パンがないからじゃないって、フランスのパン屋さんで働いていた知り合いに言われました。『カンパーニュの形でも、もっとやわらかかったらいいんじゃない?』って。向こうにはハチミツの入ってるカンパーニュがあるそうなんです。すぐ試作して、『はちみつカンパーニュ』っていうのができて。
はちみつだけだとさびしいから、カンパーニュ、はちみつカンパーニュ、あと黒砂糖を入れた『くろカンパーニュ』って、3種類の食事パンができました。で、くろカンパーニュから、またクリームチーズをどーんって入れた、『くろチェリーチーズ』ができて。そのへんは、今でも人気があって、昔と同じレシピなんですよ」
カンパーニュ生地をアレンジして体にもやさしいパンに

甘いパンを食べすぎて体を悪くしてしまった経験から、決して譲れない一線がある。
「甘い生地のパンは作りたくなかったんで、はちみつカンパーニュとくろカンパーニュはいいってことにして、あとは生地を甘くしないで。『こうしたくない』とか、『こうしたい』みたいな自分の中のルールが、すごく強くありましたね」
最初の店は機材も少なく、焼ける量も少なかった。
「よそのパン屋さんでいろんなパンを見るのが、負い目っていうか、自分が恥ずかしくって。もっといろいろやりたいけどなにもできてなくて、もやもやしてたんですよね」
北村さんは将来どうしていくべきか迷い、「見える人」に訊きにいった。
「『あなたはパン屋さんをずっとつづけなさい』って言われて。本当にやめたくなかったから、そう言ってもらえて私は、なんかすごくやる気が出たんですよね。やっていいんだなって思って。じゃあ、やるからにはもっとよくしないと。これから何十年もやれるようなお店にしなくちゃと思ったら、移転しかないなって思って」
北海道の小麦農家に毎年足を運ぶ

2013年、東京・南大沢に移転。本当にわくわくする店だ。ケースの中の愛らしいパンたち。イーストより発酵に時間がかかり、不安定な発酵種だけだというのに、こんなにいろいろなパンが並ぶ店を思いつかない。お客さんを喜ばせようという愛がなければできない仕事だ。
その頃、北村さんは、雑誌で小麦畑に足を運ぶパン屋さんの記事を見た。
「『あっ、行っていいんだ』っていうか。もともと国産の小麦を使っていましたが、その理由って、作ってる人が見える、会いたいと思ったら会いに行けるし、圃場も見に行けるところ。輸送のための燃料とかフードマイレージ、あとは農薬のことも考えて。でも、実際に農家さんに会いに行ったことあるかって思ったら、なかったんです」
はじめて訪れた十勝の自然栽培生産者・中川農場。そこで事実を突きつけられるように感じた。
「農家さんに行ったのも初めてで。小麦を栽培することがどれだけ大変なのか、なにも知らなかった。1年の半分以上そこに投資して、それがダメだったらなにもかもダメになる。リスクを冒しながら、化学肥料や農薬を使わない栽培をしている。小麦を毎日使ってパン作ってるのに、小麦のことも何も知らないし、農家さんのことも何も知らないんだなって思い知って帰ってきたっていう感じで。
以来、北村さんは毎年お店を休んで、スタッフたちも連れて、十勝の小麦畑を訪れる。
「これからずっと国産小麦でパンを作りたいんだったら、自分たちが学ばないといけないし、農家さんたちを知らないといけない。パン屋さんとしてそう思いましたね」
生産者の顔が見えるパン作り

小麦畑を訪れたときの感動、小麦生産者との思い出、そこから湧き上がるイメージ。それを形にしたいという思いに突き動かされている。
「小麦農家さんに会うと、その方の小麦のパンを作りたいって思う。そうすると、その小麦の特性と特徴とか、イメージに合わせたレシピを考えちゃう。どんどん種類が増えちゃって。
農家さんと食べる人をつなげる役割が自分たちにあるんだってすごく感じて、『中川さんの○○』『しのえさんの○○』みたいな、農家さんの名前のついたパンが増えました」
「自然栽培 中川さんのスペルト小麦のパン」は、すばらしくやさしいパンだ。ゴマのようなおだやかな香ばしさのあと、うま味がにじみでる。グルテンのつながりが弱く、さわさわとした舌触りの中身は、勝手にちぎれて溶け、やわやわとおかゆのようになり、でんぷん質の香りが喉でふくらむ。
生産者や品種、製粉の意図が見事に表現されているといえば「湘南ロデヴ」。ばりっとした歯切れ、甘さ、ミルキーさ、コク、そして赤ワインに似た発酵の香りと、すべてのバランスが整っているのだ。

生産者を訪れ、日々小麦に触るからこそ、高い解像度でわかる。品種の特徴だけでなく、生産地や栽培方法によるテロワールまで。品種それぞれの風味を組み合わせてバゲットはできる。
「バゲットが、北海道東神楽の吉原農場さんの『キタノカオリ』に、北海道本別町・前田農産さんの『きたほなみ』。甘みは甘みでも、前田農産さんの『きたほなみ』はうどん系の甘みっていうか。吉原農場さんの『キタノカオリ』は濃いミルキー感っていうより、ちょっと低脂肪乳みたいな感じのミルキーな印象なんですよね」
酸っぱくないパン、硬くないパンへ。思いを実現するために確立した製法。長時間のオートリーズで水分をじゅうぶん粉に吸わせる。酸味が出ないように30℃以上の高温で発酵種を継ぐ。発酵の温度は、冷蔵や17℃といった温度帯が主流にもかかわらず11℃で。
「どんどんやりながら変えてった感じなんですよね。すごい方の下で学んだとかでもないし、ほぼほぼ自力で見つけ出す方向。何が正解なのか分からないので、正直…なんとなくこれでいいのかなー? 大丈夫かなー? みたいな。やってみないとわかんないっていうところがあって、やってやって、やりながら調整していく感じですかね。もしかしたら、もっと近道でその条件を知ってた人もいると思うんですけど、私の場合はなんでもちょっと遠回りかな。やって、結果で見て、ああそうかってやってる感じかな」
食材のおいしさを生かしたサンドイッチ

冷蔵ケースの中に、凝った材料のさまざまなサンドイッチを目にするのは、「チクテベーカリー」に行くことの大きな楽しみのひとつ。
「誰でも来れるお店にしたかったので、この土地の人の野菜を使って、季節でどんどん変わっていくようにしています。食事パンだけではなかなか食べてもらえないし、そもそも発酵種のパンに抵抗のある方が多い。きっかけはサンドイッチでいいんです」
冬は「ロースト人参とプロシュートのsand」。店からほど近い愛川町の「有機農園けのひ」のオレンジにんじんと北海道芽室町「自然菜園ふたば」の黄色と紫にんじんをオーブンでロースト。繊細な火入れによって、脇にまわりがちな野菜が主役級の大活躍をする。
「焼き時間はそんなに長くないんですけど、にんじんの硬さに合わせて、焼けた順にピッピッピッってはじいてく。硬すぎない柔らかすぎないっていう食感が命なので。実はあれスパイス、すっごい量をからめてて、にんじんだけ食べるとめちゃめちゃ辛い。ガツンってきたほうが、ロデヴの皮もあんまり気にならないし、中のしっとり、ちょっとクリスピーなのが映えるんです」
歯切れ良く、具との一体感も見事

先述した湘南ロデヴが、スパイスの角をいい感じにまろやかにしてくれるのだ。
夏になると「2色のズッキーニのモッツァレラとバジルのsand」に変わる。こちらは青と黄色の2色。バジルの風がさわやかに吹き、モッツァレラがミルキーにあふれるのをまとめあげるのは湘南小麦のロデヴ。おいしいパンは、1+1を2以上にする。
「アーモンドのパン」を使った「レバーペーストのsand」。レバペの爆発力で生地を食べ進み、ホールのアーモンドが弾けてさらにレベパがおいしくなる。レバーへの違和感をこんなに感じないレバーペーストはないかもしれない。
「めちゃめちゃ時間がかかります。鶏のレバーの血をお掃除してから、包丁で全部細かく刻むんですよ。3㎏仕込むと、刻むだけで1時間半。煮込むのに3時間くらいかかってます」
フードプロセッサーで刻めば一瞬。でも、ねっとりとした食感を避けるため、あえて包丁で。見えないところになんて手間と時間をかけるのだろう。
「毎回、『今度こそやめてやる』って思ってるんですけど、でも『おいしかった』って言われると、またがんばろうかなって思っちゃうんです」
ライ麦パン「ロブロ」のおいしさも発信中

2023年には、すぐ隣りの建物に「チクテ キオスク」をオープン。パンやサンドイッチをはじめ、「有機農園けのひ」の野菜や食雑貨を置く食のセレクトショップ。パンだけではなく、食卓をトータルに提案するコンセプトだ。
品揃えのひとつに、デンマークの国民食であるライ麦パン「ロブロ」も。健康によいことや、なにより、スモーブロにしたときのおいしさで注目を集めている。
「すごく体が楽なんですよね。ライ麦の挽き方が粗めでも消化にいいし、お腹持ちもいいので、自分も好きだし、お客さんにもどんどんおすすめしたいパンです」
ロブロを作って終わりではなく、北村さんはパンを食べる人の食卓まで見据える。いっしょに合わせられる約5種類のお惣菜を販売。季節の食材を使い、毎回アドリブでメニューを考える。たとえば取材した2025年4月30日は「チクテのフムス」「ラディッシュの葉とほうれん草のジェノベーゼとブロッコリーのディップ」「ラディッシュとカリフラワーのビネガーマリネ」「ホタルイカのコンフィと小松菜菜花」「ダフィノア」の5種。
「楽しみ方を知ってる方ならいいけど、初めての方は手に取りづらいので考えねばと思って。『じゃあ、お惣菜自分で作ればいいんじゃん』って趣味の領域ではじめたんですね。家でスモーブローを作って、フォークとナイフで食べると、とっても贅沢な気持ちになるんです。この贅沢な時間を、お客さんにもお伝えしたいなと思って。ロブロを流行りで終わらせたくないし、地道な趣味活動としてやってます」
作り続けることで、ファンがファンを呼ぶ店に

「チクテベーカリー」は今年で24周年になる。店に入ってきた人がそのまま扉を閉めて出ていった24年前、開店前からたくさんの人が並ぶ24年後。発酵種のパンに対する私たちの意識を変えたといっていいだろう。北村さんには、”好き”を実現する確信があったのだろうか。
「うーん、確信っていうよりは、そんな世の中になったらいいなって思ってました。食べて体がすごくよろこぶパンだと思うし、ずっと食べていけるパンだと思ってたんで。いつかそういう日がきたらって、なんか夢見てました。普通の街を歩いてる若者や、お年寄りとか、子供連れのご家族の方々とかが、天然酵母のパンだっていうんじゃなくて、『このパンが好きっ!』って、普通に食べてくれる日が来たらいいなって。今はちょっとは夢がかなっています」
「お子さんが食べてたり、お年寄りがご夫婦で毎週買いに来てくれたり、いつも来てる方は選ばずに『あれとこれとこれとこれ』って買ってくれたり。『あの方はあれを買うんだな』とか『いまあれないんだよな』とか『もう焼けるんだよな』とかって思いながら。そうやってお客さんの様子を見てるのがすごく好きなんですよ。そのためにやってるなあって感じです」
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