
2010年からスタートし、今年で16回目を迎えた「ミシュランガイド京都・大阪」。“世界で最も星付き店数が多い町”が東京というのは有名な話だけれど、京都・大阪だって負けてはいない。京都で開催されたアワードセレモニーから、ミシュランスターを獲得したばかりのシェフたちに熱々のコメントをいただいた。星獲得店舗も合わせてチェック!
なぜフランス版と違って日本版はエリア別?

2024年秋の「ミシュランガイド東京2025」授賞式では、映画『グランメゾンパリ』でカッコ良すぎるシェフを演じた木村拓哉さん・玉森裕太さん両名がプレゼンターを務めて話題になったミシュランガイド。半年後の今回、京都と大阪の珠玉レストランが発表された。
本国フランスでは1900年から続く老舗グルメガイド。現在、世界45のエリアが紹介されていて、フランス版はといえば1500ページをゆうに超え、まるで聖書のよう存在感を放つ分厚いガイドブックとして知られている。いや、フーディーにとってはまさに“バイブル(聖書)”だ。
フランス版がどれだけ分厚くてもパリ版やプロヴァンス版などに分かれることはないけれど、日本では最初から東京版(2007年〜)や京都・大阪版(2009年〜)に分かれていて、ここに他のエリア版も不定期でたまに刊行されるというスタイルが定着している。なぜエリア別なのか。さまざま理由はあるだろうけれど、日本は飲食店軒数や食のジャンルが他国に比べアンビリーバブル級に多いこと、ゆえに世界中のレストランとホテルを数十名のワンチームで匿名調査しているというミシュラン社のインスペクター(調査員)たちの手間と負担が膨大になること……などが、「ミシュランガイド日本」ではなくエリア限定になっている理由ではないかと私は勝手に想像しているけど、どうだろうか? もっとも、今後どうなるかは誰もわからない。
“定義”を知ればミシュランガイドの性格が見えてくる

ところで「ミシュランガイドといえば星の数を競うランキングガイドだよね」と考える人が多いと思うのだけれど、はい間違い。今回の「ミシュランガイド京都・大阪2025」には合計469軒の飲食店が掲載されているが(過去最多数!)、ここには誰もがイメージする“星付き店”、つまり三つ星・二つ星・一つ星店のほか、ビブグルマンやミシュラングリーンスター獲得店、セレクテッドレストランと、実はかなり多彩な構成になっている。「どのレストランが星を増やしたor減らした」に目がいきがちだけれど、俯瞰すればこのガイドブックは「飲食業界の今」を照らして応援する、そんな目的があるんだなと理解できる。多彩な構成は「ミシュランガイド」が時代に合わせてそのあり方を模索している表れであり、100年以上続く老舗ガイドといいながらもその姿勢には頭が下がる。
だが、しかし! こうも多彩になってくると、それだけ理解は追いつきづらくなる。ここで定義についておさらいしよう。
三つ星……そのために旅行する価値のある卓越した料理
二つ星……遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理
一つ星……近くに訪れたらいく価値のある優れた料理
ビブグルマン……価格以上の満足感が得られる料理
セレクテッドレストラン……ミシュランガイドおすすめの飲食店・レストラン
ミシュラングリーンスター……持続可能なガストロノミーに対し、積極的に活動しているレストラン
「ミシュランタイヤ」社が運営するガイドブックだけに、自動車旅行を楽しむ人々をターゲットにした定義づけであることに注目。また、持続可能な環境実現を無視できない自動車業界なので、「ミシュラングリーンスター」も2020年からスタートさせている。今回、世界で初めてヴィーガンラーメンを展開する京都の「ウズ」が獲得して、来場者から喝采を浴びていた。
ちょっと迷うのが、「ビブグルマンとセレクテッドレストランをどう理解すればいいのか」問題。ビブグルマンは、関西弁に言い換えれば「お得やんか、ええやんか❤️」的な店で(おそらく)、比較的カジュアルなお値打ち店が多くオンリストされている。対する「セレクテッドレストラン」は、東京版も京都・大阪版も共に2024年度から導入された新たな枠組み。上記の定義文だと、ちょっとふわっとした印象。だって、そもそもすべての店が「ミシュランガイド」のおすすめなのでは? どうしても納得したい私は、主宰者側が抱くいくつかの理由と事情を想像している。
・星を付けるにはまだ何かが足りないけれど、それでも敢えておすすめしたい良店がある
・かといってコスパ寄りのビブグルマンとは同じくくりにしづらい
・1年に一度ではなく毎月のように公式HPで新規に店を紹介し、「ミシュランガイド」の存在を常に知らしめ、飲食業界を活気付けたい
・「一つ星店」から降格となる中にも「それでもいい店なんだよね」という存在がある
……といったことで誕生したのが「セレクテッドレストラン」枠なのではないだろうか。
東京版と何が違う?

「ミシュランガイド東京」と「ミシュランガイド京都・大阪」では、何が違うのか? 2冊を見比べてみると歴然とした違いがあって、それが日本料理店のランキング軒数の多さだ。特に京都。三つ星店5軒と二つ星店16軒のすべてが日本料理店という圧巻ぶり!
いやこれはいくらなんでも日本料理が強すぎるのでは……と最初は思ったのだけれど、恵比寿様のように福々しい笑顔の「菊乃井 本店」村田吉弘さんに取材し、なるほどなぁと納得した。「菊乃井 本店」は、16年連続の三つ星受賞店だ。
「ヨーロッパにはもっと長く三つ星を受賞し続けているシェフがぎょうさんいはりますよ。東京に比べて京都・大阪の星付き店は日本料理が多いですが、これは本国フランスでは元々、三つ星というのはグランメゾンに与えるものという意識があったからやないかと思います。ミシュランガイドは料理のみを評価するとされていますが、それでも私ら京都の料理人は、空間芸術や文化の継承、人材育成に至るまで、きっちり次世代に伝えていくことが三つ星店の仕事やと思って続けています」(村田さん)
ちなみに今回、星付き店やビブグルマン、セレクテッドレストランなどの掲載店全469軒のうち、日本料理店は188軒(京都123軒、大阪65軒)。実に全体の40%が日本料理店であり、これは「ミシュランガイド東京2025」の日本料理店比率(103軒・20%)と比べると驚くべき多さだ。しかも、寿司店や蕎麦店、天ぷら店などの「日本料理系」も含めるともっとその比率は高くなる。世界最強の日本料理激戦区、それが京都・大阪という場所でありその歴史はとてつもなく古い。そう考えると、この結果も至極妥当だと腑に落ちた。
ミシュランスターはどうすれば獲れる?

このストレートすぎる質問を「ミシュランガイド京都・大阪2025」で唯一、イノベーティブジャンルで三つ星を獲得した大阪「HAJIME」の米田肇シェフにぶつけてみた。
「どうすれば星が獲れるか……。私にはわかりません。でも、一つ、二つ、三つの星の料理がそれぞれどんなものか、実際に数多く食して自身の言葉で言語化できるかどうかは重要だと思います。だって、自分が三つ星の何たるかを理解できていないのに闇雲に目指すとか、ましてやそれをチームスタッフに説明して意識共有するなんて無理な話ですものね。フランスでの修業時代は多くの店を食べ歩きましたが、その頃から私の作りたい料理と三つ星レストランのそれには共通する要素を感じ、実践すべく努力してきました」(米田シェフ)
前出の村田さんに続き、米田シェフも理路整然と“腑に落ちる”ことを語ってくれる。しかも大賑わいのアフターパーティーでの突然の質問に、これ。こなした場数によるのかもしれないが、「語る話に一貫性と説得力があること」も、強いチームビルドが必要とされる三つ星店の料理人の共通要素ではないかと思った。
星付き店になると世界が変わる?

3月に開催された「アジアのベストレストラン50」で8位という快挙を果たした大阪のフレンチ「ラ・シーム」の高田裕介シェフを混み合う会場で発見。シャンパーニュメゾン「ドン・ペリニヨン」のアンバサダーを務めたり、3月末にオープンした「Kith 大阪」のVIPディナーの料理を担当したりと、トップブランドからのラブコールが絶えないイノベーティブフレンチだけれど、実は2016年から10年連続で「ミシュラン京都・大阪」では二つ星ホルダーでもある。「星を獲得すると世界は変わる?」というミーハーな質問にも、わかりやすく答えてくれた。
「責任も重くなるけれど、出来ることの幅が広がった気がします。ステージが仕上がっていない時って、認知度の低さが障害にもなるし何といってもパワーに欠ける。その点、少しずつ自由も増えてきたのかなと思います。まだまだ満足していませんけどね」(高田シェフ)
怖いと思う瞬間ってありますか?

アワードセレモニーの後のカクテルパーティーでは、会場を訪れた多くの飲食関係者やメディアに向けて受賞店の料理が振る舞われた。そんな中で、2022年から一つ星を獲り続けている京都のイタリアン「チェンチ」の坂本健シェフ(右)と副料理長を務める渥美彰人シェフを発見。「(星を)無くしたらって思うことはありますか?」と聞いてみた。
「もちろんです。ありがたいことに、ゴ・エ・ミヨ、アジアのベストレストラン50、ミシュランガイド京都・大阪……で評価をいただいてきましたが、中でもミシュランガイドは料理関係者や食通以外の人にも知られる存在。ありがたい反面、どうすれば維持できるのか、自分でもまだ確固たるメソッドをつかめていません。伝統と文化、格式を重んじる京都・大阪ですが、最近少しずつイノベーティブにも寛容になってきている気配を感じます。希望を持って、コツコツとやっていこうと思います」(坂本シェフ)
日本料理が強いエリアで、他ジャンルはどう生きるべき?

「山口さん!」と声をかけていただいて、それでもどなたか最初わからなかったのは京都のイノベーティブレストラン「コケ」の中村有作シェフ。前回お会いした時は調布の「マルタ」でTシャツ&エプロン姿で熱々のチーズを目の前で作ってくださった(服が違いすぎてわからず、失礼しました)。六本木のフレンチ、神戸のモダンスパニッシュ、アジア放浪の後に「マルタ」立ち上げに関わり、2021年に京都に自身の店「コケ」を開業。初年度から一つ星を獲得し続けている。そんな中村シェフに「日本料理のレッドオーシャン、しかも伝統と格式の町、京都で、イノベーティブで勝負する秘訣は?」と聞いてみた。
「住んでみて本当に伝統&格式の都だと実感しています。しかも遠い昔から料理の先達が築いてきた尊い文化でもあり、僕たちはそれをまずは見習いながら少しずつ自分の表現を試みていくしかないと思います。共存の姿勢。この町で勝負するためには必要ではないかと」(中村シェフ)
新規一つ星獲得店のシェフたちから喜びのコメント!

祇園にある一つ星の日本料理店「大渡」の大渡真人さん(右)に肩を抱かれるようにして祝福されていたのは、今回新たに一つ星店の仲間入りをした大阪「片町川口」の川口洋さん(中央)と、京都「宮脇」の宮脇雅也さん(左)。
「星をいただけたことがまだ信じられません。今ようやく一口お酒をいただいて落ち着いたところ。料理人は僕一人という店なので星を獲ったからといって大きく変化することはないですが、お客様に報告したいと思っています」(宮脇さん)
「先輩である大渡さんにはいろいろ教えていただきました。晴れがましい場は苦手ですが、それでも今日はうれしい。明日から心機一転、頑張ります。おこがましいようですが、今日を“通過点”だと思って、さらに精進しないといけません」(川口さん)

「ミシュランガイド東京」と比べて、まだまだ女性シェフの活躍が少なめな京都・大阪。そんな中、明るいニュースを運んでくれたのが京都「ジャン-ジョルジュ アット ザ シンモンゼン」の総料理長、ハナ・ユーンシェフ。韓国出身でニューヨークにある名門料理学校「CIA」に学び、その後、ニューヨークの二つ星レストラン「ジャン-ジョルジュ」でスーシェフまで上り詰めた努力の人だ。2023年3月の京都店オープンを機に総料理長に任命され来日した彼女は、2年で最初の星を獲得することになった。
「料理って言語だなと感じています。お客様に出す料理は一皿一皿心を込めて調理しますが、そこに余計な言葉を重ねなくてもちゃんとメッセージが届く、そんな部分にレストランの醍醐味を感じます。それにしても、こんなにたくさんレストランがある中から選んでいただけたなんて、冥利に尽きます。感謝です」(ユーンシェフ)

コメント最後は、メキシコ人のウイリー・モンロイシェフ(右)。メキシカンイノベーティブ「ミルパ」は今回、日本で初めてメキシコ料理店として一つ星獲得を果たし、共に店を盛り立てるソムリエの長谷川憲輔さん(左)も喜びを隠せない様子。実は私、授賞式前夜に「ミルパ」でディナーをいただいてきたのだけれど、店側は授賞式参加予定ではあるものの星を獲得できるかどうかはわからずという状況で、それでもみなさん、多幸感あふれるサービスと楽しい料理でもてなしてくれたのだった。
「去年の9月にオープン。2カ月目くらいでミシュランガイドの『セレクテッドレストラン』に掲載していただき、逆にそこから今日までの半年間は星を獲得できるチャンスがあるのでは、と、緊張して過ごしました。今日は本当にうれしい!」(モンロイシェフ)
駆け足で紹介した「ミシュランガイド京都・大阪2025」の会場レポート。ただ、どんな賞もそうだけれど発表された時にはすでに翌年への勝負が始まっている。これまでの努力と結果に惜しみない賞賛を送りつつ、関西シェフたちの“今”を味わうために、私たちはもっと旅をしなくちゃと思ったのだった。
星獲得店はこちら!

京都 三つ星店
【菊乃井 本店】日本料理
【瓢亭】日本料理
【一子相伝 なかむら】日本料理
【祇園 さゝ木】日本料理
【未在】日本料理
大阪 三つ星店
【太庵】日本料理
【HAJIME】イノベーティブ
【柏屋 大阪千里山】日本料理

京都 二つ星店
【有職料理 萬亀楼】日本料理
【山荘 京大和】日本料理
【おたぎ】日本料理
【京懐石 吉泉】日本料理
【草喰 なかひがし】日本料理
【美山荘】日本料理
【緒方】日本料理
【菊乃井 露庵】日本料理
【祇園 にしかわ】日本料理
【祇園 又吉】日本料理
【祇園 丸山】日本料理
【建仁寺 祇園 丸山】日本料理
【高台寺 和久傳】日本料理
【炭火割烹 いふき】日本料理
【凌霄】日本料理
【高台寺 十牛庵】日本料理
大阪 二つ星店
【カハラ】イノベーティブ
【天神橋 青木】日本料理
【ぬま田】天ぷら
【宮本】日本料理
【弧柳】日本料理
【Fujiya 1935】イノベーティブ
【ラ・シーム】フレンチ
【鮨 原正】寿司
【幽玄】日本料理
【旬彩天 つちや】天ぷら
【老松 ひさ乃】日本料理

京都 新規一つ星獲得店
【菊乃井 鮨 青】寿司
【中満】日本料理
【しろ】現代風料理
【辻布紗】日本料理
【宮脇】日本料理
【ジャン-ジョルジュ アット ザ シンモンゼン】フランス料理, 現代風料理
大阪 新規一つ星獲得店
【ルーツ ナカノシマ】現代風料理
【西天満 市がや】日本料理
【ミルパ】メキシコ料理
【片町 川口】日本料理
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