イギリスを代表するビッグメゾンである「バーバリー」に期待するのは常に、伝統と現代性を兼ね備えた英国スタイルだ。ダニエル・リーが指揮を務めて以来、アウトドアとアーバンウェアが軽やかに混ざり合う洗練された男女のワードローブを提供してきたが、今季はそこに、刺激的なスパイスが加えられた。ショー後のバックステージでリーは、「イギリスが世界的にどのような意味をもつのか、そして世界がイギリスをどう見ているかという、理想主義的な視点について探究した」と語る。
着想源の一つとなったのは、2023年公開の映画『ソルトバーン』。オックスフォード大学を舞台に、特権階級に生きる人々の欲望渦巻く世界を描いた映画である。「ディナーにとても風変わりな洋服を着て、クレイジーなパーティーを開いて、すべてがどこかゆがんでいる。彼らのボヘミアン精神のようなものこそ、私が求めていたエネルギーだった」と説明したリー。同映画のキャストであるイギリス人俳優リチャード・E・グラントをはじめとした、多くのセレブリティが“バーバリーブルー”に染まったキャットウォークを闊歩(かっぽ)した。
イギリスの田園風景を描き出す、映画のセットのようなテート・ブリテンのショー会場。リーがコレクションに注入した破壊的なエネルギーは、グラデーションで終盤に向かって密度を高めていく。その序章である前半のルックは、イギリス北部の街ヨークシャー・デイルズの自然風景を投影した、タペストリーブラウンやディアトープの温かなカラーパレットで、思わず触れたくなる柔らかい質感の素材を使ったノスタルジックな装いが中心となる。
ワークウェアを基盤にしたアウターは、ゆったりとしたリラックスしたムードのオーバーサイズ。ニットウェアは体を包み込むように丸みを帯び、イギリス上流階級の定番スポーツ、ポロを想起させるキュロットや乗馬ブーツを再解釈したサイハイブーツでイギリスの伝統的な装いを、現代的にアップデート。
ビッグサイズのマフラー、ケープとレインコートをドッキングしたボリュームたっぷりのアウター、フリンジで全身を飾るニットドレス。色彩もパンキッシュなレッドやイエロー、“バーバリーブルー”よりも深いネイビーと、エキゾチックな色が差し込まれて熱量が徐々に上がっていった。イギリス的な要素はさまざまなところにちりばめられており、じゅうたんのような質感の艶やかなベルベット、絵画をモチーフに採用した精巧なニットウェア、タペストリーがトレンチコートに応用されたりと、芸術と室内装飾もウェアとシームレスに融合。
70年代風のボヘミアンかつロマンチックなスーツスタイルもあれば、パジャマ風のエフォートレスなセットアップ、動きに合わせてフリンジがドラマチックに踊る、ドレスとしてのトレンチコートも目を引く。多彩なテキスタイルによる豊かな質感がコレクションを盛り上げていくと同時に、アーティスティックな感性も終盤で最高潮に達した。
まるで生き物のように、意志をもって動いて見える彫刻的なイヴニングドレスに加え、クロップド丈のトレンチジャケットにはレザーをカットアウトして植物のモチーフを浮き彫りにする、職人技術が生きるピースでイギリスの伝統的な技法にもフォーカス。イギリスの文化と歴史を多彩な手法で詰め込んでも、絶妙なバランス感覚によりそれらは見事に現代的なウェアへと帰結し、フィナーレを迎えた。
イギリスらしい反逆心と、自由な精神をたたえるコレクションは、伝統を守りつつも、既存のものを破壊して新しいものを生み出すイノベーションへの挑戦でもある。破壊と創造の反復により、「バーバリー」が打ち出したの新時代の英国スタイル。リーがメゾンに加入してからの2年間で、最も説得力のある、最高のコレクションで前進したようだ。