自然からの恵みであるプレシャスストーンの輝きを最大限に発揮する、絢爛(けんらん)豪華なハイジュエリーの世界。“パリの宝石箱”と称されるヴァンドーム広場に店舗を構えるジュエラーから、格式高いクチュールメゾンまで、卓越した職人技術と豊かな創造性を生かした壮大な新作ハイジュエリーコレクションが披露された。
匠(たくみ)の職人の手で完璧にカットとポリッシュが施され、精緻に仕立てられた作品はどれも、宝石のきらめきとともに神秘的なオーラを放ち、見る者を魅了する。全てのジュエラーにとって、“自然”は無限のインスピレーション源であるが、その観察眼と表現方法にはメゾンの美学が現れ、個性豊かなユニークピースで彩られた。今回は、パリで発表した5ブランドの新作ハイジュエリーコレクションをご紹介する。
カルティエ(CARTIER)
表現力豊かなジュエラー「カルティエ」は、“ナチュール ソヴァージュ”と題したコレクションを通して、動物たちの個性と生命力、 そのたたずまいに焦点を当てる。ハイジュエリー クリエイティブディレクター、ジャクリーヌ・カラチは、「動物たちが名優のように、 グラフィカルなデザインとボリュームの中で戯れ、錯覚を引き起こすような光景に溶け込む、それが本コレクションの精神です」とコメントを寄せている。
1914年に登場して以来、メゾンのアイコンとして世界を探検し続ける“パンテール”。今回は想像上のジャングルで、26.53カラットの堂々たるスリランカ産サファイアを見守る護衛として、勇ましくも愛らしい姿で登場した。エメラルドに光る鋭い眼球からしなやかな肉体美、くるっと丸まった尾っぽまで、写実的なシルエットはアトリエが駆使する高度なテクニックがなせる技である。
「カルティエ」の動物の世界には、色鮮やかなカワセミもたたずんでいる。繊細なイエローゴールドのくちばし、サファイアのラインがあしらわれた青みがかった優美な羽をもった鳥が、15.21カラットのクッション トルマリンが目を引く“イスピダ”リングに舞い降りた。
架空のジャングルから、 未知なる海の宇宙へ。刻々と変化する深海の水の色のニュアンスが投影された“エシナ”ネックレスでは、20年代にメゾンが生み出したビーズの作品を取り入れ、唯一無二の歴史にオマージュをささげる。ダイヤモンドを敷き詰めたオ ープンワークのグラフィカルなモチーフの上で、メロンカットを施した豪華なエメラルドとブルーサファイアが交互に配されたネックレス。雄大な自然と動物の世界に新たな視点を向けることで、メゾンの大胆で表現力あふれるクリエイションは、さらなる高みへと到達したようだ。
ブシュロン(BOUCHERON)
創造性に富んだアイデアとそれを具現化させる職人技術で、「ブシュロン」のハイジュエリーは私たちに感動と驚きを与え続けている。ヘリテージ作品を着想源に現代的に再解釈した最新コレクションでは、手つかずの自然を意味する“UNTAMED NATURE”と銘打って、メゾンに継承されるユニークな自然観にオマージュをささげた。
人間の手が加わっていない自然本来の姿に強く惹きつけられた創業者フレデリック・ブシュロンは、クローバーやデイジー、野バラ、アザミといった素朴な草花や、蝶やコガネムシ、トンボといった小さな生きものたちを愛し、ジュエリー制作の着想源としていた。観察と研究を重ねて自然のありのままの姿をハイジュエリーとして表現した創業者の作品とメゾンに継承されるユニークな自然観に敬意を払い、革新的なスタイリングを想定してマルチウェアラブルな作品として制作された、28点からなる生きた百科事典のような新作コレクションにも息吹をもたらす。
クリエイティブ ディレクター、クレール・ショワンヌがヘリテージに新たな視点を向けて生み出したのは、北極圏でも生息するほどの耐久性と強い生命力をもつコケモモ、古くから食糧として親しまれてきたオーツムギ、鋭いとげで身を守るアザミ、小道沿いに見られる多年草のアオイ。緻密な可動構造により流動性を失わずに連結され、柔らかさと丸みを帯びた立体的なフォルムで草花の姿を忠実に再現しながら、軽やかな着け心地のよさを同時に叶えている。
ネックレス、ブローチ、ヘッドピースなど、一つのアイテムが何通りにもトランフォームするマルチウェア作品の多くは、色に頼ることなく、主にダイヤモンドとホワイトゴールドで統一され、モノクロームの世界観で表現。加えて、腕に巻き付くブレスレット、胸元に添って広がるカスケードブローチ、身体の上をたどるようにつたい、着用者と一体化するかのようなユニークなデザインで、植物の特性をもハイジュエリーに投影した。
そんな「ブシュロン」の無数の光に満ちた自然界に暮らすのは、ロッククリスタルとマザーオブパールを用いた数ミリの薄さのはねをもったマルハナバチ、白とグレーのマザーオブパールのカラーグラデーションを用いて4枚のはねを創り上げた夜の蝶など。革新的な技術により創業者が愛した昆虫たちも、さらなる進化を遂げて生き生きと輝く。完璧な美しさへの探究心と、枯渇することのない創造性で、「ブシュロン」はハイジュエリーの限界を押し上げ、その可能性の領域を再定義し続けている。
ショーメ(CHAUMET)
自然のありのままの姿を愛し、ジュエリーへとその姿を具現化させてきた「ショーメ」。ハイジュエリーカプセルコレクション“バンブー”では、アジアへのオマージュを込めて、これまであまりモチーフとして扱ってこなかった竹を題材とする。日本で生命力、成長、長寿といったあらゆる象徴的な意味を含む竹の姿を、大胆にハイジュエリーへと落とし込んだ。
1150時間もの制作時間を経て完成したネックレスでは、ネックラインをグラフィカルに飾る圧倒的な存在感で、空に向かって堂々と伸びるバンブーの姿が華やかに再現されている。13.19カラットのオーストラリア産ブラックオパールの強い輝きが、鮮やかなブルーからアップルグリーンまで、意外な色の組み合わせのツァボライトガーネットで互いを引き立て合う。イエローゴールドで表現された竹の葉は、手彫りの金細工で葉脈までかたどる徹底ぶり。
リングとブローチもネックレス同様に、彩り豊かなパレットが特徴。中段のリングは、メゾンの代名詞である“トワ エ モワ”(フランス語で“あなたと私”を意味する)モチーフが、ツァボライトガーネットの輝きが隣り合わせにセットされたブラックオパールに映し出されるという大胆な手法のリングで再解釈されている。
一方、コレクションに欠かせないティアラは、イエローゴールドとホワイトゴールドのコントラストで抽象的なデザインを際立たせた。風に揺れて竹の葉が一方向になびく、一瞬の動きと躍動感を感じさせる。竹の純粋な美しさ、永続的な“自然の模範”としての凛としたたくましさが宿るコレクションが、メゾンが自然とともに織りなしてきた歴史に新章として加わった。
グラフ(GRAFF)
イギリスを代表するジュエラー「グラフ」は、ヴァンドーム広場に構える店舗内でマスターピースをお披露目。鳥のさえずりがサウンドトラックとして響く展示スペースで、1羽のスパロウが、もう1羽にギフトを贈る姿を描いたネックレスがまばゆい輝きを放った。“ギフト オブ ラブ”と名付けられた最新作は、愛と希望、そして絆を象徴する鳥である繊細な2羽のスパロウを、永遠の輝きを放つダイヤモンドで表現した。構築的でありながら、鳥のフェザーを思わせる有機的なフォルムを描き、その優美なシルエットは自然界の美しさをたたえる。
美しいブルーサファイアの瞳と、漆黒のオニキスのくちばしで彩られた2羽のスパロウは、 ネックレスの中央に向かい合うように配置され、まるで見つめ合っているよう。ダイヤモンドの翼を広げ優美に舞い上がる1羽が届けるのは、13.51カラットのファンシーインテンスイエロー ペアシェイプ ダイヤモンド。ネックレスにあしらわれたペアシェイプ、ラウンドブリリアントカット、バゲットカットのダイヤモンドはすべて、「グラフ」の匠(たくみ)の職人の手でカットとポリッシュが施され、ホワイトゴールドの枠にていねいにセットされている。
完成までに3年の歳月を費やし、熟練した職人が6000時間以上をかけて完成させたマスターピース。「グラフ」デザイン ディレクター、アン-エヴァ・ジェフロワは作品に込めた思いを語った。「作品を通し2羽の感情や関係性、そして愛を伝える瞬間を表現しようと試みました。『グラフ』がこれまで手掛けてきた鳥をモチーフにしたハイジュエリーと同様に、私たちは自然が生み出したこの壮麗な生命たちが互いを思う感情の深さを捉え、その瞬間の輝きをジュエリーで表現することに挑戦し続けています」。細部に至るまで精巧に制作されたこのジュエリーは、真のアートピースと言える傑作であり、ブランドの歴史を通して長く語り継がれることになりそうだ。
ディオール(DIOR)
「ディオール」のオートクチュール メゾンとしてのルーツを宝石で表現し続ける、ジュエリー部門のクリエイティブ ディレクター、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌ。新作“ディオール ミリー ダンテル”では、ムッシュ ディオールの庭園からインスピレーションを得て、壮麗な自然をハイジュエリーへと昇華させた76作品を生み出した。壁から天井をドライフラワーで覆い尽くした幻想的な会場装飾の中で、永遠の輝きを放つマスターピースがひときわきらめいていた。
まず最初に目を奪われたのは、ピンクルビーを中心に、ピンクサファイアやツァヴォライトガーネットの異なる色調のピンクで、豊かに咲き誇る花々。クチュールの上質な糸で織られたレースをほうふつとさせる精巧なデザインは、きらめきと軽やかさが交錯し、珠玉の宝石と優美なパールがもたらす輝きの色彩が華やかさを際立たせる。
陽気な木立や曲線美が際立つ葉を、カラフルなストーンで描いたチョーカーに、七色に光るオパールを主役に据えたネックレス、爽快な青空と雲を想起させるブルーサファイアが中央にたたずむネックレス。
全ての作品の土台であるホワイトとイエロー、ピンクゴールドによる、まるでアートピースのように精緻に模されたレースモチーフは、「ディオール」が誇るの職人技術のたまもの。はかないまでに繊細な細工が、クチュールドレスのような軽やかさと壮麗さをハイジュエリーで表現している。メゾンが重んじる自然美とエターナルな繊細美にささげる頌歌として、魅惑的で歓びにあふれる新たな物語が紡ぎ出された。