comparison of two individuals boss b and fumi nikaido featuring their names and a focus label

二階堂ふみ(以下ふみ):BossBさんは天文物理学を研究されてきて、いまは大学で学生たちを教えていらっしゃるんですよね。学生たちを見ていて、どんなことを感じますか?

BossB:日本の社会も変わりつつあるなと思いますね。私が教えているのは工学部だから、男の子ばかりなんだけど、男の子の感覚が変わってきたなって。例えば私の兄弟とか、ごりごりの昭和のおっさんなんですよ。でもいまの学生たちは、その時代の男たちとだいぶ違う。

ジェンダーの役割についても、男だからこうとか、女だからこうとか、固定概念に昔より縛られていない。多様性を認める社会になりつつありますよね。確実にいい方向に向かっているなと。そのかわり元気がないと言えばないかもしれない。

ふみ:元気がないというのは、少しわかる気がします。

boss b
BossB/信州大准教授。アメリカのコロンビア大学博士課程終了後(天文物理学)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ドイツのマックスプランク天文学研究所などで研究活動後、7年の子育てを経て、2014年よりアカデミア(学術界)にカムバック。宇宙と物理と哲学の重複領域で研究を続け、SNSで発信するコンテンツが話題に。

理解できる範囲だけで生活していたら、それは自由のない奴隷と一緒

BossB:もしかしたら、小中高と黙って聞くだけの教育を受けてきたので、自分から意見を言うことに慣れてないのかもしれない。恋愛する元気もないように見えますよね。本当は練習試合をいっぱいしなきゃいけないのに、あなたたち何やってんのって。ちょっと悲しいなと思いますけど。

ふみ:本来はポテンシャルがあるはずなのに、若い人たちは自分で可能性を閉ざしているようにも見えますよね。それって未知の宇宙について考えはじめると、どんどんわからなくなってきて、自分から思考をシャットダウンしてしまうのと似ているような気がして。

BossB:ああ、未知の真っ暗な世界を目の前にすると、シャットダウンしたほうが楽だと思っちゃうんですかね。でも何もわからないところに踏み込まないかぎり、新しい道は開けないと私は伝え続けています。理解できる範囲だけで生活していたら、それは自由のない奴隷と一緒。物理的にいえば、それはすべて計算できることだから。

ふみ:計算外のところに踏み出さないといけないんですね。

BossB:そう。計算できる世界線の上を進んでいこうと思っている人はイコール「奴隷」です。そこから外れて、模索するからこそ、私たちは自由なのに。自分の世界線を自らの手で創る、これこそが私の人生だと思える方向に行くことです。

ふみ:その発想は、BossBさんがずっと探求してきた物理の考え方とつながっていますか?

BossB:そう思います。物理というのは、この世の中の現象を数学や論理で説明しようとする試みのことで、それを通して説明できることがいっぱいあるんですね。なぜここにテーブルがあるのかとか、なぜ私たちは水と酸素をベースに生きているのかとか。その中でも、今この瞬間の物理的情報から、次の瞬間の状態が予測できて、その次の瞬間の状態もずっと予測し続けることのできる、宇宙の力と運動の関係を表す法則があります。

この法則を利用して、私たちは車を動かし、壊れない建物を建て、コンピューターも作った。つまり、そうやってこの現代社会は成り立っているのだけれど、その法則に従って現実や宇宙全体を見ると、からくり人形のように動いている私たちの世界線が見えてくるんです……。私たちには自由意志がない。ビッグバンが起きて、宇宙が始まったときから、すべては決まっている、という宇宙が見えるのです。

でも、私は自由のない人生は嫌なんです。嫌だからこそ、マルチバースの無限の可能性の中に自由を求めています。マルチバースだから世界線は無数にあり、自分で選べる。自ら選んで、計算可能な世界線から外れることができる。そこに自由があるのではないかって。与えられた道から脱線したところにしか自由はないし、さらには、そこにしか新しいものは生まれないと思っています

ふみ:物理の考え方を持てれば、脱線することに対して躊躇(ちゅうちょ)がなくなるんですね。

BossB:だから私はあえて脱線していこうと。もちろん脱線したくないときもあるし、しない方がいいときもあります。健康にいいものを毎日食べるとか、同じ時間に必ず寝るとか、そういうことはある意味、思考停止で習慣化していったほうが人間にとっていい。でも新しい何かを創造したり、人生を楽しんだりする部分は、脱線したところにしかないんじゃないかと思います。

これはtiktokの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

ふみ:私にとっても、未知なるものに挑戦するのは楽しいことではあるんです。でも保守的になってしまう気持ちも、年々強くなっていく感覚があって。じゃあ、どうすれば自分から可能性をつかみにいけるんだろうって思うんですよね。

BossB:すべてに対して挑戦していたら、疲れてしょうがないですよ。私の場合、海外から日本に帰ってきたとき、あらゆる場で戦い続けていたら、自分が削れていくだけだなということを実感しました。社会の隅々にある、いろいろな不正義と正面切って戦っていたら、自分が擦り切れてしまう。  

  そんなとき、信州大学のエクアドル人の先生に「You have to pick a fight.」って言われたんです。すべてに対して戦えないから、戦いを選べということです。自分にとって譲れない部分、大切なところに力を保存して全力で戦う。私なら、息子のためとか、宇宙の探求とか、社会をよくするための社会活動とか。二階堂さんだったら、演技や表現することなんでしょうね。そういう自分の情熱が傾くところでは、もう探検しまくるしかないと思います。

 もちろん自分を守ることも必要だけど、敷かれたベルトコンベアの上を進むだけでは、社会そのものが潰れてしまう。というのも、このあいだ私の息子から「どうして僕らの時代は希望を持てないのか?」と言われたんですね。私は海外にいたのでわからないけど、この30年間、日本の若者は希望を持てずにいたんでしょう?

ふみ:そうですね。私も“失われた30年”と呼ばれる時代に生まれ育ってきましたけど、たしかに不安になる情報がいろいろなメディアで飛び交ってきたと思います。

創造がなければ文明は廃れる。科学技術ベースの地球を維持するために、創造し続けていくしかない

BossB:でも私は、どちらかというと楽観的で、どうにかなるでしょうと思っているんです。もちろん世界中の資源は限られているわけで、いままで通りの生活を続けていたら、世界は潰れるに決まっている。でも人間の文明が、どうしていままで続いてきたかというと、目の前の問題を解決して、新しいものを生み出してきたからですよ。

 そうした創造があると、世の中は豊かになっていく。でも創造がなければ、人間の文明は廃れていきます。人間には何万年もの狩猟生活時代があったわけで、そこに戻れるなら、この先もずっと人間は生き続けていけるかもしれない。でも後戻りできないのであれば、この科学技術ベースの豊かな文明と地球を維持するために、創造し続けていくしかありません。

 なにより日本の場合、ジェンダー後進国じゃないですか。つまり、女性の能力が全然使われていないということ。これ、日本の隠れた宝だと思います。日本を元気にするのは、日本の女性たちだと私は思う。

ふみ:日本の女性たちが能力を発揮するためには、どんなことが必要だと思いますか?

BossB:日本の女性たちは「女のくせに」と言われる社会でずっと生きてきたわけでしょう?  私も小さいころは、どれだけ「女のくせに」と言われたことか。そうやってどんどん頭を叩かれると、その差別構造が内在化されてしまうんです。私は女だから、なにもできないんだって。そうやって女性たちは能力を制限されてきた。

 だから頭を叩く金づちを取り上げればいいんです。それ以外、なにもしなくていいですよ。金づちを取り上げさえすれば、女性たちの能力は、特に差別構造をまだ内在化していない若い世代の女子の能力が開花するんじゃないですか? そのまま自由に、やりたいことをやってほしいです。

ふみ:それぞれのやりたいことを、みんな自由にやっていけばいいんですね。

BossB:そう。社会の言うことも、学校の言うことも、ひいては親の言うことも、いっさい聞かなくていいです。いらないことばかり言うので。

ふみ:聞いていて気持ちいいです(笑)。日本の女性たちは、社会が与える女性の役割を演じないといけない部分がありましたよね。

BossB:私はそれがないから強いんですよ。高校を卒業したあと、すぐ海外に出ていったから、日本の社会にその役割を植え付けられていない。植え付けられそうだったので、嫌だと思って出ていったんです。

これはtiktokの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

物理を社会貢献の一環に。物理の手法で現実を見ると、無限の可能性が広がっている

ふみ:メディアに関わる立場としては、責任を感じる瞬間もあるんです。女性は愚痴(ぐち)をよく言って、感情で物事を決めるという女性像を、エンタメにしてしまう場面もあるので。でもBossBさんのSNSを見ると、日本にも聡明な女性がいることが改めてわかるし、若い人たちに火を付けるような言葉の数々に勇気づけられます。SNSを通じて発信を始めたきっかけは、なんだったんですか?

BossB:コロナ禍に入って、それまで学生たちと行っていた社会活動――例えばエチオピアの貧困農村部の女子に教育機会を与えるプロジェクトとか――がいっさいできなくなったんです。じゃあ、インターネット上でなにかできないかということになり、SNSで発信してみようと。当時、中学生だった下の子がTik Tokをやっていたから、私にとっては新鮮なTik Tokで発信することにしたんですね。

 初めは学生たちを表に出すつもりだったんです。でも学生たちが尻込みしたので、私が例を示してみせたら、それがバズっちゃった。そうなると今度、自分のメッセージが届くなと思って、個人レベルでなにができるだろうかと考えはじめたんですね。そこでBossBという名前が誕生して、YouTubeとか発信の幅が広がって、いまに至るというわけです。

ふみ:メッセージが届くという実感は大きかったですか?

BossB:その後、いろんなところから声がかかるようになったのは、みんな見てるということですよね。テレビは嫌いだから出ないんだけど、いろんな場所に講演会にも行って、みんなに勇気が伝わっているなって。「BossBさんのメッセージで起業することに決めました」と、泣きながら言ってくれた若い女の子もいて、そういう人たちに出会うと発信を始めてよかったなと思います。

ふみ:私もBossBさんの発信を通じて、ずっと難しいと思ってきた宇宙や物理のことを、身近に感じられるようになりました。なによりBossBさんがエネルギッシュに、宇宙愛を込めて説明してくださるので、すごく引き込まれます。

BossB:世の中には物理の説明をする動画が山ほどあるから、そことは一線を画して、私は社会活動の一環としてやりたいと思っているんです。物理の手法で現実を見たら、目の前に無限の可能性が広がっているよって。女性だけでなしに、男性も、いろんな世代や国籍の人も、エンパワーしていきたいんですよね。

ふみ:ちなみにエチオピアの女性たちを支援する活動は、どんなきっかけから始まったんですか?

BossB:信州大学には留学生が多かったこともあって、日本人学生も含め、自分たちのできる範囲で社会になにかを還元していこうという多国籍の団体ができたんです。そこで週に一回集まり、環境問題とかLGBTの問題とか、いろいろな社会課題を語り合うなかで、エチオピアの学生が自分の育った貧困農村部の現状を話してくれました。

 女の子は朝5時に起きて、遠いところまで水を汲みに行き、帰ってきてからでないと小学校に行けない。だから遅れて行くんだけど、昼ごはんの時間は家に戻って、家族のために食事を作らないといけない。結局、女の子はなかなか学校に通えず、12歳で結婚させられたり、アラブ諸国に家政婦として出稼ぎに出されたりと、そういう現状があると言うんですね。

 そこから私たちは学んで、エチオピア大使館の方とお付き合いさせていただくようになり、じゃあエチオピアに実際に行ってみようと。そういうふうに始まったわけです。ただコロナ禍に入ったあと、エチオピアで内戦が起きてしまったので、いまは向こうの団体に支援金を送ることで、貧困農村部の小学生や中学生にエンパワー活動を行ってもらっています。

ふみ:ひとりの学生をきっかけに、社会活動が始まったというのが素晴らしいです。そもそもBossBさんが、社会をもっとよくしたいと考えるようになったのは、どうしてなんですか?

BossB:私が学生時代を送っていたころのニューヨークは、ロウアーイーストサイドのマンハッタンとか、不法占拠された廃墟がいっぱいあって、移民もたくさんいて、怪しげな雰囲気の面白い街だったんです。パンクロッカーも大勢いて、私はパンクロックが大好きだったから、よく出入りしていたんですよね。ヤバい、なんかドキドキすると思って(笑)。

 そのころ「Food Not Bombs」を合言葉に、爆弾ではなく食べ物を分け与えようと言って、ホームレスの人たちに食べ物を配ってまわる活動をしていたのが、パンクロック系の人たちでした。自分の書いた文章をZINEにして配ったり、海賊ラジオでパンクロックを流したり……そういう未知の世界、ドキドキする世界に引き込まれたんです。それがまた危なかったりすると、余計にドキドキして(笑)。

 その辺からじゃないかな。世の中にはいろんな経済背景の人がいて、いろんな思いで暮らしているんだと気づいたときに、自分はなんて恵まれているんだろうと。別にお金持ちでもなんでもなかったけど、海外の大学に通えること自体が恵まれたことだなと感じて、そこから私の探検が始まったんです。

ふみ:パンキッシュでエネルギッシュなBossBさんが生まれたんですね。

これはtiktokの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

自分の頭で考えて行動することは大変だけれど、一歩踏み出さない限り、道は開けない

BossB:あとはもう、若いころの反抗心ですよ。学校の先生から、親から、なにを言われても「なんで?」って。とにかく「なんで?」だらけだったんです。二階堂さんもそうでしょう? 「女のくせに」と言われたら、「このヤロウ!」みたいな。

ふみ:でも「女のくせに」と言われることが少なくなってきたいまは、女性たちにも、男性たちにもチャンスですよね。男性も、男性らしさを求められることから、徐々に解放されるようになってきて。

BossB:そうですよ。自分の才能を自由に発揮できる時代なんだから。

ふみ:ふたりのお子さんを育てるなかで、新しい発見もありますか?

BossB:学ばされることがいっぱいあります。親だから、もちろん心配ですよ。なんでも自由にやらせてきたけど、本当に大丈夫なんだろうかって。でも子どもたちを愛しているから、信じるしかない。自由というのはお花畑ではない、未知の世界の探検だから茨の道です。自分の頭で考えて、自分で行動することは大変なことです。

ふみ:そうですよね。大きな責任も伴うし。

BossB:そうそう。人間というのは、選択肢が増えれば増えるほど選べなくなるそうです。例えばお店に行って、ジャムがふたつ置いてあると、どちらか選びやすいそうですね。ところがジャムを11種類に増やすと、途端に選べなくなる。間違えることが怖くなってしまって。でもそこで1歩踏み出さない限り、道は開けない。だから殻に閉じこもっていたら絶対にいけない。

ふみ:それがBossBさんのメッセージですね。

BossB:はい、その通りでございます(笑)

これはtiktokの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
text indicating a user profile section
a model showcasing a knitted sweater with graphic artwork
FUMI NIKAIDO

二階堂ふみ(FUMI NIKAIDO)

1994年、沖縄県出身。映画『ガマの油』(2009年)でスクリーンデビュー。その後も日本を代表する演技派俳優として、映画『ヒミズ』(2012年)、『リバーズ・エッジ』(2018年)、『翔んで埼玉』(2019年)、『月』(2023年)、ドラマ「エール」(2020)、「Eye Love You」(2023年)など多くの作品で存在感を見せつける傍ら、写真家としても活動。映画『遠い山なみの光』が9月5日(金)より全国公開予定。

boss b

BOSS B

本名・藤田あき美。信州大准教授。アメリカのコロンビア大学博士課程終了後(天文物理学)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ドイツのマックスプランク天文学研究所などで研究活動後、7年の子育てを経て、2014年よりアカデミア(学術界)にカムバック。宇宙と物理と哲学の重複領域で研究中。 永遠の探検家、ハイブリッド、息子二人を宇宙よりも愛する母、そして愛と自由、宇宙思考で皆が輝ける社会を創るために発信を続けるインフルエンサー&社会の縁から攻めるプチ革命家。著書『宇宙思考 宇宙を知れば、視点が増える 視点が増えれば、モノゴトの本質が見えてくる』(かんき出版)も話題に。

かんき出版 宇宙思考 宇宙を知れば、視点が増える 視点が増えれば、モノゴトの本質が見えてくる

宇宙思考 宇宙を知れば、視点が増える 視点が増えれば、モノゴトの本質が見えてくる