自分らしい働き方で好きなことを仕事にする女性を紹介する連載「Own Boss Women」。今回は、歯科医師として働きながら、「平尾賛平商店」の代表取締役を務める、加藤順子さんが登場。
大学在学中に始めたInstagramでライフスタイルに関する投稿が人気を集める。2015年よりモデル活動をスタート。現在は歯科医師の本職を持ちながら、クリエイティブディレクターとしてさまざまなブランドとコラボレーションを行う。2023年に“生活の余剰”を提供するブランド「AMAL DEPARTMENT STORE」を立ち上げる。2024年4月、オーラルケアブランド「平尾賛平商店」の代表に就任し、デンタルフロスを発売した。 Instagram
老舗化粧品メーカー「平尾賛平商店」との出会い
Q. 現在のお仕事について教えてください
本業である歯科医師として勤務しながら、クリエイティブディレクター、「平尾賛平商店」の代表取締役として商品開発やPR業務を行っています。
Q. 「平尾賛平商店」代表取締役に就任した経緯は?
以前から、漠然とオーラルケアブランドを立ち上げたいと考えていました。歯科医師の視点で開発した、高品質でデザイン性にも優れたオーラルケア用品を展開しようとリサーチを重ねるなかで、まさにその理想を体現した「平尾賛平商店」というブランドが過去に存在したことを知りました。
1878年(明治11年)創業の「平尾賛平商店」は、日本で初めての現代的な歯磨き粉“ダイヤモンド歯磨”の開発や、化粧品ブランド「レート」で知られ、戦前には国内最大シェアを誇った歴史ある化粧品メーカーです。当時の日本では初めて洋名を使用した先進的なセンスや、モダンで美しいパッケージデザインに惹かれ、創業家の方へコンタクトしたことがきっかけとなり、今年4月に「平尾賛平商店」の代表取締役に就任する流れとなりました。
デンタルフロスを当たり前に
Q.商品づくりでこだわった点は?
「平尾賛平商店」で開発した“ダイヤモンドフロス”は、使いやすさと見た目の美しさにこだわったデンタルフロスです。面倒に思われがちなフロスに1秒でも早く到達できるよう、開閉しやすい設計に。洗面台にそのまま置いておけるデザインと、水にぬれても崩れない丈夫な紙のパッケージを使用しています。
歯と歯の間に通したときに痛くないよう、マイクロファイバーを2000本以上寄り合わせて作りました。柔らかいだけではなく、しっかりとコシがあるクリーミーな使い心地を目指しています。
Q. フロスを開発した背景は?
歯磨き粉や歯ブラシではなく、「なぜフロス?」と驚かれることもありますが、私たち歯科医療従事者が最もケアしてほしいのが歯と歯の間なんです。日本ではあまり定着していませんが、フロスを使った予防習慣は、虫歯や歯周病のケアには欠かせないものだと思っています。
一方、診察では、症状が出た後の患者さんとのコミュニケーションが主になります。予防習慣の大切さを熱意を持って伝えても、運よく巡り合えた一人一人の患者さんにしかアプローチできないことに、ずっと無力感を抱いていました。
そこで、より多くの方に予防習慣を身につけていただくため、機能とデザインが両立した商品の開発を思い立ったことが、フロスの発売につながりました。質が良くて使いやすいオーラルケア用品が安く手に入るにも関わらず、予防習慣が根付いていない理由には、やはり使っていてときめかない、気分があがらない、ということがあると思うんです。なので、デザインも機能のうちと考えています。
歯科医師だけではない、自分に合うキャリアを探求
Q.歯科医師として働きながら、パラレルキャリアを築く理由は?
歯科医師として働き始めて8年目になります。臨床が好きなので長く仕事を続けたいと思う一方で、自分のやりたいことや好奇心が、歯科医というひとつの職業には収まりきらないということには早い段階から気付いていました(笑)。現在のキャリアは自分がやりたいことに取り組んだ結果でしかなく、パラレルキャリアを築こうと思ったわけではありません。
強いて言えば、女性歯科医師は、診療と向き合わなくてはならない時期と、結婚・妊娠を考える期間が重なります。ライフイベントでキャリアが途絶えるなど男性歯科医師と同じようにはいかない場面もあり、諦めてしまう方も多く、その点に関しては複数の活躍の場があることは必然だったのかもしれません。
私が新しい働き方に挑戦することで、「自分もやってみようかな」と思う歯科医師が増え、業界全体が盛り上げるきっかけとなればと考えています。
自分が納得できるものだけを広めたい
Q.商品の企画や開発を始めたきっかけは?
ものづくりのおもしろさを実感したのが、ランジェリーブランドとのコラボレーション。当時からモデルもしていましたが、自分では中であまりしっくりきていなかったんです。そんなときに事務所を通してブランドにプレゼンテーションをした結果、商品開発に携わることになり、「私がやりたいのはこれだ!」と気づきました。
インテリア用品やアパレルなどプロデュースしたコラボ商品が好評で、自分が自信を持って作ったものを、みなさんにも「良い」と思ってもらえることがうれしくて。これなら自分の力を発揮できるかもしれないと、オーラルケアブランドの立ち上げにつながる動機となりました。
2020年には本格的にクリエイティブディレクターとして活動するために独立し、雑貨ブランド「AMAL DEPARTMENT STORE」を設立。ここで得た学びが「平尾賛平商店」の運営にも生きています。
Q.発信するときに心がけていることは?
きれいなものを見ると、「写真を撮らないともったいない」って思っちゃうんですよ。そんな性格なので、インフルエンサーとしてのお仕事に休みはありませんが、楽しいからうまくいくんだと思います。
インフルエンサーは、自分で選ばなくても企業からさまざまなものが提供されますが、フォロワーが知りたいのは「本当に好きなものは何か」だと思うんです。クリエイティブディレクターとしても、自分でものを買わなければ、値段が妥当かどうかの感覚もわからなくなってしまう。なので、本当に気になったものは自分で購入し、「これは!」と思ったものを投稿しています。
Q.これからの目標は?
オーラルケア用品のラグジュアリーブランドと言えば「平尾賛平商店」という認識になるように、ブランドを広めていきたいです。また、美容感度の高い女性全員が、フロスをするのが当たり前になるように啓発していくことを目標にしています。
直近では、“ダイヤモンドフロス”のさまざまなバリエーションを展開する予定。カラーやフレーバーなど、いくつか並べた中から「今日はどれを使おうかな」と、選ぶ楽しさも提供できればと考えています。
コラボレーションとは違って、最初からマーケティングに携われるのが自分でブランドをスタートさせる強み。ゆくゆくは、海外進出や店舗展開も視野に入れています。
お仕事バッグの中身を拝見!
「トーテム」のバッグを愛用。名刺ケースはフィービー・ファイロ時代の「セリーヌ」。京都のホテル「丸福樓」のアメニティーポーチに、「エルメス」と「ゲラン」のリップライナー、「ラ・メール」のリップバーム、「クレ・ド・ポーボーテ」のコンシーラー、「アルビオン」のリップ、「資生堂メン」の日焼け止めを収納。毎日欠かさないサプリは、ビタミン剤と日焼け止め。ノートと、SNSのコンテンツ作りに使用するAirpodsと「リコー」のGR。
photo:KAORI AKITA text:NANA SUZUKI