
日本各地にある「民藝館」を巡ろう!
1925年に「民藝」という言葉が生まれて100年。いま知りたい、民藝を展示する各地の美術館を紹介しよう。
日本民藝館

柳宗悦、濱田庄司、河井寬次郎が提唱した、民衆の用いる日常の品々に美しさを見いだす新しい概念「民藝」。民藝の品を収集・展示・研究する美術館施設として1936年に東京・駒場に開設された。初代館長は柳宗悦、現在の5代目館長は深澤直人が務める。

所蔵品は17,000点以上で、大半は柳が収集した。36年に竣工した本館の旧館部分は柳が中心となって設計。和をベースとするが、エントランスは、洋風建築のような大階段が来訪者を出迎え、吹き抜けもあり、大らかな雰囲気。木とガラスの陳列ケースは柳のデザインで、展示室壁面の張地も柳が指示をした。展示室には、手仕事を引き立てる温かさが漂う。
<写真>本館、玄関から大階段を見る。

バーナード・リーチ、濱田庄司、河井寬次郎、芹沢銈介らの作品も収蔵する。工芸作家の回顧展や、民画、朝鮮の工芸など、見ごたえのある特別展が新作展を含め年に5回開催され、訪れるたびに民藝が現代の人々の心にも響くものであると気付かされる。
<写真>本館2階の大展示室。柳宗悦が設計した旧大広間を踏襲し2021年に改修された。

本館と通りを挟んで立つ西館の旧柳宗悦邸も柳の設計で35年築。第2・3水曜と第2・3土曜に公開されている。臨時休館もあるので
見学の際は、公式サイトで開館情報の確認を。
<写真>西館の旧柳宗悦邸。
日本民藝館
東京都目黒区駒場4-3-33
公式サイト
松本民芸館

松本を代表する民藝運動家であり、螺鈿細工のつくり手でもあった丸山太郎が、私費を投じて1962年に創設した。館内では、丸山が生涯をかけて収集した約6,800点もの国内外の民藝品コレクションの中から800点ほどを常設展示。1階には箪笥や行李などの家具や道具が、2階には陶磁器やガラス器、民具などが並ぶ。
松本市の伝統工芸品である松本箪笥や英国のウィンザーチェア、李朝家具などがしっくり溶け合う空間は、受付近くに掲げられた丸山の書にある「美しいものが美しい」「美に国境はありません」という民藝に対する美意識が反映されている。

風情ある長屋門となまこ壁の蔵造りの建物が目を引く松本民芸館。ほの暗い館内の窓から見える北アルプスの景色も美しい。市内の中町通りにある、丸山が創業し現在は家族が引き継いでいる老舗民藝品店「ちきりや工芸店」も、併せてぜひ訪れたい。
<写真>松本民芸館のなまこ壁。
松本市立博物館分館 松本民芸館
長野県松本市里山辺1313-1
公式サイト
日下部民藝館

江戸幕府直轄の天領として栄えた岐阜・飛騨高山。両替商として御用商人だった豪商の日下部家11代目当主・日下部禮一が、柳宗悦が提唱する「民藝運動」の思想に共感し、日下部家住宅の母屋と蔵を1966年に一般公開し、所蔵の文物を展示したのが日下部民藝館だ。

見どころのひとつは、1879年に建てられ重要文化財に指定された日下部住宅。もともとの邸宅は明治8年(1875)の大火で類焼したが、4年後に飛騨高山の名棟梁だった川尻治助が再建。天井には約13mもの赤松一本が貫く大きな梁、束柱の豪快な木組が2階以上の高さまで達する開放感あふれる吹き抜け空間だ。また出格子や、ベンガラに煤を混ぜた焦茶色の塗りなど飛騨高山独自の建築技術の粋を凝らした貴重な町家建築は必見。

風情ある土間や蔵に渋草焼の初期赤絵など日下部家伝来の古美術品、民藝品が展示され、当時の生活の様子が垣間見える。
2022年秋には、13代目当主の日下部勝により民藝館に隣接する築100年余りの離れを改修した1日1組限定のラグジュアリーヴィラ「谷屋」をオープン。宿泊ゲストは民藝館に自由に出入りできるほか閉館後もプライベートラウンジとして貸し切る唯一無二の体験ができる。
<写真>上:『古渋草色絵大鉢』 下:『時代根来三足盆』
日下部民藝館
岐阜県高山市大新町1-52
公式サイト
大阪日本民芸館

1970年、大阪で開催された日本万国博覧会に、関西財界と東京・駒場の日本民藝館が出展したパビリオン「日本民藝館」。万博終了後、建物と作品の一部を引き継いで、72年に万博記念公園内に開館したのが大阪日本民芸館だ。
三角形の中庭を取り囲む回廊式で鉄筋コンクリート造の建物内には、大阪万博パビリオンの時に製作された松本民芸家具による欅の木目が美しい展示ケースが設置されている。往時のパビリオンで現存しているのは大阪日本民芸館と鉄鋼館の2つのみと貴重な万博遺産でもある。
<写真>2本の楠が立つ中庭。日本各地のさまざまな壺や甕が置かれている。

初代館長は陶芸家の濱田庄司、2代目館長はインダストリアルデザイナーの柳宗理。民藝運動の西の拠点として、同館が所蔵する陶磁器や木漆工品、染織品など約6,000点を中心に、国内外の民藝品を、春季(3月~7月)と秋季(9月~12月)の2回、特別展を開催し紹介している。

ぜひ訪れたいのが毎年5月に開催される「みんげい市」。関西を拠点に活躍する民藝のつくり手20名以上が正面玄関前に出店し、直接作品を販売。つくり手と触れ合える希少な機会だ。
大阪日本民芸館
大阪府吹田市千里万博公園10-5
公式サイト
※2025年7月16日~9月5日まで夏期休館、9月6日より開館。
河井寬次郎記念館

柳宗悦、濱田庄司と「民藝」を提唱、活動を推進した陶工・河井寬次郎(1890~1966年)の京都・五条坂の住まい兼仕事場、登り窯も残る。中国の古陶磁に倣った初期の華麗な作品から、用の美を追求した中期、第2次世界大戦後の自由な創作が開花した後期の焼き物や、ほぼ手元に残したという木彫作品も公開。展示ケースだけでなく室内にも飾られており、生活の中にある美しさを実感する空間だ。

家は河井の設計で、郷里の安来で家業の大工を継いだ兄を招いて建造。臼を用いた椅子や書斎の机、囲炉裏の自在鉤も河井のデザインだ。各地で河井が買い求めたものや濱田庄司が贈った箱階段など、河井の目を通したもので家全体が成り立っている。
<写真>棟方志功が字を書き黒田辰秋が制作した看板がかかる。

寬次郎の孫で高校時代までこの家で暮らした学芸員の鷺珠江さんいわく「美にこだわった人でしたが、窮屈には感じませんでした。暮らしていて楽しかった」。温かな「寬次郎さんの家」は、河井寬次郎と民藝に惹かれる人々を今も穏やかに迎え入れている。
<写真>庭にいる河井寬次郎。安来の友人から贈られたこの石も庭にある。転がして好きな所に置いて楽しんだ。

<写真>登り窯も見学できる。近隣の陶工と共同で使用、河井は前から2番目を使った。
河井寬次郎記念館
京都府京都市東山区五条坂鐘鋳町569
公式サイト
※2025年8月12日~8月22日まで夏期休館、8月23日より開館。
鳥取民藝美術館

民藝の美を現代生活に取り入れるため、「新作民藝」の創出に力を注いだ吉田璋也が、鳥取の民藝運動の拠点として1949年に創設した鳥取民藝美術館。吉田が国内外から集めた民藝品や吉田がプロデュースした新作民藝など、器を中心に5,000点以上が収蔵されている。

中でも、黒と緑に大胆に染め分けられた牛ノ戸焼は、吉田自身がデザインした新作民藝の草分け的存在。他にも、和紙を使った電気スタンドや、和室でも使えるよう底部を工夫した椅子など、新作民藝の分野は木工・金工・染色など多岐にわたる。
<写真>左:『緑釉黒釉染分皿』 右:『伸縮式中折傘電気スタンド』

「建築も民藝である」と考えた吉田が設計や意匠まで手掛けたという建物も、手すりやスイッチカバーなどの細部に至るまで美しく、国の登録有形文化財(建造物)にも選ばれている。

鳥取駅からほど近い当館には、民藝のつくり手と使い手をつなぐ「鳥取たくみ工芸店」と、民藝の器と空間で鳥取の食が楽しめる「たくみ割烹店」も隣接。どちらも民藝の魅力を広く普及したいという吉田の想いが投影された施設だ。
<写真>左の石の階段がある建物が鳥取民藝美術館。向かって右隣りに、鳥取たくみ工芸店がある。
鳥取民藝美術館
鳥取県鳥取市栄町651
公式サイト