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アルル studio ko
François Deladerrière

南仏・アルルに「ファッション&コスチューム美術館」がオープン! 17世紀建築に宿る現代のミニマリズムとは?

改装を手掛けた建築家デュオ、Studio KOにインタビュー。

By Minako Norimatsu

アートに造詣が深い街、南仏のアルルにまた一つ、新しい文化的なランドマークが生まれた。『アルル国際写真フェスティバル2025』の初日を控えた7月初旬にオープンした、「ファッション&コスチューム美術館」だ。

<写真>18世紀の趣を残した、「ファッション&コスチューム美術館」の外観。

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「ファッション&コスチューム美術館」にて、アカデミックな視点で展示されているのは、アルルを中心としたプロヴァンス地方に伝わる民族衣装の歴史や特性。秘蔵品はいずれも、香水の聖地グラースを拠点とするフレグランス・メーカーである「フラゴナール」の3代目、故エレーヌ・コスタと、プロヴァンスの研究で名を馳せた歴史家・作家、故マガリ・パスカルの膨大なコレクションから。クレモン・トゥルーシュのディレクションのもと、それぞれの志を継ぐ娘たちーーアンヌ、アニエス、フランソワーズのコスタ三姉妹と、自身も歴史家・コレクターのオディール・パスカルーーは、各自の視点と知識を持ち寄った。

<写真>地上の階のウインドウは、キャビネ・ドゥ・キュリオジテをイメージして、衣服と小物やタブローを交えた展示。光沢のあるフロアと天井が幻想的。

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アルル旧市街中心地にフラゴナール社が数年前に購入した美術館の前身は、「オテル・ブショー・ドゥ・ビュシー(Hôtel Bouchaud de Bussy)」。17~18世紀に建てられたクラシックでエレガントな邸宅は仮の市役所、産院、観光局と用途を変え、館内には元の姿をリスペクトしない改装が重ねられていた。

今回の大改装を手掛けたのは、フランス人のオリヴィエ・マルティーとカール・フルニエによる、Studio KO。洗練されたミニマルでコンテンポラリーなデザイン、伝統的なサヴォワフェール、該当地の素材を取り入れたサイト・スペシフィックな構想で知られる、建築家デュオだ。直線と曲線を絶妙なバランスで交錯させた環境で過去と現在が対話する展示に、プレビューのビジターたちから賞賛の声が尽きない同美術館のオープニングで、Studio KOの二人に話をきいた。

ELLE DECOR(以下ED):このプロジェクトを持ちかけられた際、最初はやや気おくれしたそうですね。

Studio KO(以下KO):感動した一方、責任の重みも感じたんです。こんなに歴史がある建造物の改装は、例えるならパリンプセスト(羊皮紙に綴られた二重写本。以前に書かれたものが完全に消されていず、読み取れることが多い)。最初に訪ねた時は、歴史遺産認定のファサードをも擁する元邸宅が、ここまでダメージを受けていたことに驚きました。でも結局はこの建物が息を吹き返し、エレガンスと元来の気高さを取り戻すよう貢献したい、と思うようになったんです。歴史的建造物修復を専門とする建築家、学識のあるナタリー・ダルティーグと彼女のチームのサポートもあり、地元のヘリテージをとても誇りにして守り続けているアルルの人たちに直接アピールするプロジェクト、と言う点も僕たちにとって大きなモチべーションとなりました。

ED:デザインにあたって念頭に置いたことは何ですか?

KO:建物も衣装コレクションも歴史的背景がありますから、感情的なインパクトを放ちます。それに流されないよう一歩引いて、緊張感を保つことに努めました。

<写真>フロアにリサイクルの栗の木材を使用した上階の展示室。複雑な形で広がるウインドウは互いに反射しあい、万華鏡のような視覚効果を演出。

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ED:建物内で、元来の姿のまま残したのはどの部分ですか?

KO:正面大階段。ここも(ファサード同様)歴史的遺産として認定され、法で守られているのです。どちらにしてもこの素晴らしい階段に手を加えたとしたら、冒涜です! 制約がポジティブに転じたと言えるでしょう。義務ではなく自分たちの選択として残したのは、入口の天井に配された聖アンデレ十字(X型の十字架)。原型のままここまで生き延びてきたとても珍しい要素を壊してコンクリートに置き換えるほど、僕たちは厚かましくありませんから。

<写真>ドレープを寄せたキャンバス地とロープで劇的に演出した、正面大階段。

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<写真>ホールではグラニト(花崗岩)の艶やかなフロアと、Studio KOの二人がありのままの姿で残すことを決めた天井の聖アンデレ十字が、コントラストを成す。後方に見えるブティックの棚も、彼らのデザイン。








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<写真>ブロンズ色の真鍮のドアはベージュ系のトーンに溶け込みつつ、控えめな内装にリズムを与える。

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ED:ご自身たちでデザインされた家具と、空間との関係は?

KO:ここでのウインドウの意味は、展示物を守ると共に、その存在を忘れさせることです。一方栗の木で作った椅子には、アーケードのカーブをなぞった曲線を取り入れました。美術館のすぐ先にある、ローマ時代の円形劇場へのオマージュとして。

<写真>地上の階、元厩舎を利用した上映室では、シャルル・フレジェーによる、アルルの女性たちが正装コスチュームを着る段階をおさめたシルエット動画が、常時見られる。くるみの木の椅子はStudio KO作。

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ED:このプロジェクトにもたらした、最もモダンな点はどこでしょう?

KO:目には見えないところです。ここは衣服を保管する空間でもありますから、空気の処置と温度がとても大切でした。そして裏階段。セキュリティのために二つ目の階段を作ることは法で義務づけられていますが、私たちはこれを正面大階段のコンテンポラリー・バージョンとして作りました。モダンさはむしろセノグラフィーに表れています。ただしそれは抽象的で、主役であるコレクションの影に潜んでいるものですが。

ED:衣服と建築は影響し合っていると思いますか?

KO:もちろん。特にここでは衣服のコレクションも建物も、おおよそ同じ時代にできたものですから。Studio KOの仕事は、両者のダイアログが聞き取れるようにすることでした。スクリーンにとり疲れていつも急いでいる、21世紀の社会を生きる些細な個体である僕たちが、それらの声を聞けるように。

伝統とモダンさ、ハードとソフト、ラフさと繊細さ、慎ましさと大胆さ…これらの絶妙なバランス感に長けた、Studio KO。彼らは密かに、建築とコスチューム間の対話の指揮を取っている。


Studio KO
パリの美術学校ボザールで出会った二人、オリヴィエ・マルティーとカール・フルニエが2000年に設立した、建築事務所。拠点はパリとマラケシュ。代表作はマラケシュの「イヴ・サンローラン美術館」、ロンドンの「チルテン・ファイアーハウス」、「アミ・パリ」のブティック一連など数多い。現在はウズベキスタン・タシュケントにオープン予定の美術館、「CCA(センター・フォ・コンテンポラリーアート)」の改装に専念している。メタファー的表現を得意とする彼ら曰く、このプロジェクトは「ロシア皇帝時代のレンガ作りの建物を舞台に、新たに交響曲の指揮をとること」。

公式サイト


Musée de la Mode et du Costume - Fragonard
住所/16, rue de la Casade 13200 Arles
※初の展覧会Collections-Colletion展は2026年1月5日まで。それ以降もパーマネントコレクションを編集しての企画展が予定されている。
公式サイト

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