アルル旧市街中心地にフラゴナール社が数年前に購入した美術館の前身は、「オテル・ブショー・ドゥ・ビュシー(Hôtel Bouchaud de Bussy)」。17~18世紀に建てられたクラシックでエレガントな邸宅は仮の市役所、産院、観光局と用途を変え、館内には元の姿をリスペクトしない改装が重ねられていた。
今回の大改装を手掛けたのは、フランス人のオリヴィエ・マルティーとカール・フルニエによる、Studio KO。洗練されたミニマルでコンテンポラリーなデザイン、伝統的なサヴォワフェール、該当地の素材を取り入れたサイト・スペシフィックな構想で知られる、建築家デュオだ。直線と曲線を絶妙なバランスで交錯させた環境で過去と現在が対話する展示に、プレビューのビジターたちから賞賛の声が尽きない同美術館のオープニングで、Studio KOの二人に話をきいた。
ELLE DECOR(以下ED):このプロジェクトを持ちかけられた際、最初はやや気おくれしたそうですね。
Studio KO(以下KO):感動した一方、責任の重みも感じたんです。こんなに歴史がある建造物の改装は、例えるならパリンプセスト(羊皮紙に綴られた二重写本。以前に書かれたものが完全に消されていず、読み取れることが多い)。最初に訪ねた時は、歴史遺産認定のファサードをも擁する元邸宅が、ここまでダメージを受けていたことに驚きました。でも結局はこの建物が息を吹き返し、エレガンスと元来の気高さを取り戻すよう貢献したい、と思うようになったんです。歴史的建造物修復を専門とする建築家、学識のあるナタリー・ダルティーグと彼女のチームのサポートもあり、地元のヘリテージをとても誇りにして守り続けているアルルの人たちに直接アピールするプロジェクト、と言う点も僕たちにとって大きなモチべーションとなりました。
ED:デザインにあたって念頭に置いたことは何ですか?
KO:建物も衣装コレクションも歴史的背景がありますから、感情的なインパクトを放ちます。それに流されないよう一歩引いて、緊張感を保つことに努めました。
<写真>フロアにリサイクルの栗の木材を使用した上階の展示室。複雑な形で広がるウインドウは互いに反射しあい、万華鏡のような視覚効果を演出。