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ローマ郊外のヴィラ インテリア実例
Andrea Ferrari

【ルームツアー】森の静けさに寄り添うローマ郊外のヴィラ

日常が秘めた美しさを気付かせてくれる、1970年代のヴィラの再生プロジェクト

ローマ郊外、サクロファーノの丘に佇む1970年代のヴィラを建築家のシモーネ・メナッセが自らの住まいとして再生。石や木などの自然素材を主役に、建築と周囲の自然が調和する。この家は日常が秘めた美しさに改めて気付かせてくれる。「エル・デコ」2025年6月号より。

植栽の香りに包まれるプールサイドでのひととき

ローマ郊外のヴィラ インテリア実例
Andrea Ferrari

ローマの中心部から車で約30分。サクロファーノという静かな町にある1970年代のヴィラが、建築家シモーネ・メナッセの手によって丁寧に再生された。再生の目的は、単なる住空間の刷新ではなく、「時間がゆったり流れる場所」をつくること。自然と調和し、生活の質をいま一度見直すための住まいが計画された。

<写真>プールサイドにはミニマルで彫刻的な黒の屋外ラウンジチェアを配し、プールの縁は石材で縁どった。ローズマリー、ラベンダー、セージといったハーブから、オリーブ、オークといった樹木まで庭の植栽はシモーネ・メナッセ自身が手掛けている。水面が空と木々を静かに映し出す。

名作椅子でくつろぎ自然を望むダイニング

ローマ郊外のヴィラ インテリア実例
Andrea Ferrari

ヴィラのアイデンティティともいうべき特徴的な傾斜天井はオリジナルのまま残され、その下にはリビングが広がる。大きな窓から自然光が差し込み、室内を柔らかく照らし出す。メナッセが選んだ素材は、石、木、そしてコンクリート。ナチュラルで質感豊かなマテリアルは、静けさと温かみを空間にもたらしている。

<写真>大きな窓から緑を望むダイニング。特注した大理石製のオーバルテーブルをピエール・ジャンヌレによるチェアが囲む。木材をそのまま生かした70年代の天井が光を柔らかく反射し、空間全体に温かみを与えている。ペンダントライトは「オドー・コペンハーゲン」の“サーキュラー”。

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ミニマルな緊張感が家主の個性を物語る

ローマ郊外のヴィラ インテリア実例
Andrea Ferrari

家具もまた、慎重に選ばれた。マリオ・ベリーニによるソファや、ピエール・ジャンヌレ、ボーエ・モーエンセンのヴィンテージチェアなど、名作、ヴィンテージ、オーダーメイドのデザインが絶妙なバランスで配置されている。外の景色を遮らないように家具は高さを抑え、内と外が視界で溶け合うような状況を実現させた。

<写真>床、天井のコンクリート仕上げと呼応する、ステンレス天板と円柱の脚を持つテーブルはメナッセのオリジナルデザイン。無機質な素材で静けさと力強さを同時に表現している。空間に程よい緊張感をもたらす黒のスチールチェアは「オドー・コペンハーゲン」の“アフタールーム”。

この家の思想を象徴するリビング

ローマ郊外のヴィラ インテリア実例
Andrea Ferrari

メナッセは語る。「私にとってこの家は“ポーズ”なんです。スピードを緩め、息を整え、立ち止まり、考え、観察することができる。日々の喧騒に飲み込まれることなく、本当の自分でいられる場所です」

リビングには、彼の作品《ポーズ》が飾られ、空間全体のコンセプトと共鳴する。アートと建築が互いに引き立て合い、詩的なリズムが生まれた。

<写真>壁の作品はによる《ポーズ》。この家のコンセプトを象徴する。緑のベルベットで仕立てられたソファはマリオ・ベリーニが「B&B イタリア」から発表した“カマレオンダ”。ラウンジチェアはピエール・ジャンヌレ、大理石製のローテーブルは特注アイテム。

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静かに思索を楽しむウェルネスエリア

ローマ郊外のヴィラ インテリア実例
Andrea Ferrari

ウェルネスエリアは床から浮かび上がるように設計された浴槽が特徴。素材は室内と同じくコンクリートで統一されており、身体と精神をリセットする場として機能している。

<写真>他の空間と同様にミニマルな仕上げのバスルーム。木製サッシで切り取られた窓の外の風景を、入浴の前後にソファに座ってゆっくり愛でることもできる。フロアから立ち上がるように配置されたコンクリート製のバスタブは、メナッセが日本の入浴文化に着想を得て造作した。

寝室を彩る素材は上質なリネンと大理石

ローマ郊外のヴィラ インテリア実例
Andrea Ferrari

メインベッドルームの主役は、イタリア産の大理石の一種、トラヴェルティーノ。メナッセがデザインしたベッドやベンチ、サイドテーブルにはふんだんに用いられ、彼のこの素材への敬意が感じられる。バスエリアには、木製の細かい縦溝があしらわれた装飾が壁面に施され、洗面台もまたトラヴェルティーノで仕上げられている。

裏庭に目を向けると、静かなプールと慎重に選ばれた植栽に気付く。ローズマリーやラベンダー、セージなどの香り高いハーブは、日当たりの良い場所に。日陰にはフィカス、アベリア、オリーブ、オークなどが植えられ、季節ごとの変化を楽しめるよう計画されている。これらの植物は全て、メナッセが自らセレクトしたものだ。

<写真>ベッドのベース、サイドテーブル、ベンチの素材にも大理石を選択。全てメナッセがデザインした。ベッドヘッドには縦溝加工を施した石材を使用し、壁面に微妙な陰影と素材感を付加した。大理石との相性を考えてセレクトしたリネン類はローマのブランド、「ステイ」のアイテム。

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大理石と木質の繊細なアンサンブル

ローマ郊外のヴィラ インテリア実例
Andrea Ferrari

これはただのリノベーションプロジェクトではない。喧騒を離れ、スローペースで生きるための、思索と安らぎの空間だ。建築と自然、アートが静かに響き合う、その穏やかなリズムに身を委ねれば、日々の営みの中にある美しさに改めて気付くことができるのだ。

<写真>イタリア産の大理石トラヴェルティーノを用いたマッシブな洗面台は、メナッセによるオリジナルデザイン。正面のマットな壁面はしっくい仕上げ。ミラーと照明のシンメトリーな配置がこの家のキャラクターを代弁する。黒い壁付け水栓金具はシャワーヘッドとそろえた。


Realization:FRANCESCA BENEDETTO Photo:ANDREA FERRARI Original Text:DRIANA TORRIERO

『エル・デコ』2025年6月号

エルデコ6月号
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