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泡の家 アルプス フランス インテリア実例
Nicolas Matheus

【ルームツアー】“重要な現代建築”として甦った、フランスの「泡の家」

建築家のクロード・コスティとパスカル・ホイセルマンによって1960年代に設計されたユニークな白い家を、フランス南東部に訪ねた。

1960年代に建てられ、放置されていた「泡の家」を美術史家の夫妻が自らの手でリノベーション。設計当時の家具とアートで満たされた空間を擁しアルプスの絶景と向き合う建築は、自然との共生を実践している。「エル・デコ」2025年6月号より。

アルプスを背景に「白いクジラ」がまどろむ

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

フランス南東部のイゼール地方。標高1200mのシャルトルーズとベルドンヌの山間に位置する静寂の地に、その家は立っていた。「ル・バルコン・ド・ベルドンヌ」(ベルドンヌ山脈の絶景を望む)と名付けられたこの家は、1960年代に建築家のクロード・コスティとパスカル・ホイセルマンによって設計された「メゾン・ビュル」(泡の家)シリーズの一つだ。

<写真>ひと目で記憶に残る有機的な外観で、地 「泡の家」が甦った元の人々からは「ラ・バレーヌ」(クジラの意)の愛称で親しまれている。建設時に用いるコンクリートを極限まで減らした特殊な工法を採用し、草原にそっと置かれたかのような軽やかな佇まいを実現。

アルプスが眼前に迫る展望台のようなリビング

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

四季折々の絶景を楽しめるこの土地では、空気が澄み、風の音さえも静けさの一部となる。深い谷間は、冬は雪に覆われ、春には草花で彩られる。山の稜線と呼応するかのように波打つ大開口のガラス窓が、絶景を額縁のように切り取り、室内に自然を取り込む。まるで自然と一体化するような感覚。この家に住むこと自体が“自然に溶け込む”ことと同義になる。

<写真>アルプスの稜線と呼応する大きな窓が、自然光を室内へ引き込む70㎡のリビング。ヴォワル・ド・ベトンで造作したベンチに「カサマンス」の生地“タイガ”で仕立てたクッションを合わせた。スツールとチェアはピエール・シャポのデザイン。ラグとテーブルはヴィンテージ。

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オリジナルの図面からダイニングセットを再現

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

美術史家のアリス・クリストフとその夫スコット・ローリモアは別荘として古い農家を探している時に放置されていたこの建物と出合い、たちまち心を奪われた。周囲の環境に調和するその佇まいに、「私たちはこの風景の中に住むことを望んでいたことに気付いたのです」とクリストフは振り返る。

<写真>ダイニングには、建築家クロード・コスティとパスカル・ホイセルマンの図面に基づいてオーナー自らが制作した、スチールとポリカーボネート樹脂のアームチェアとカスタムテーブルが配されている。花瓶はオリヴィア・コグネ、フルーツボウルはユゲット・ベソンの作品。

ゲストの特等席は周囲を一望するテラス

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

この家の特徴は、ただの視覚的なインパクトにとどまらない。曲面を立体的に再現した鉄筋と金網の上に、薄くベール状にコンクリートを吹き付ける工法を採用し、基礎による自然への干渉を最小限に留めた。また同時に、従来の工法に比べて資材の使用量を3分の1に抑えることにも成功している。

<写真>絶景が約束されたテラス。ファイバーセメント素材のオーバル形のアウトドアチェアはウィリー・グール&ロベール・パンサールによる1970年代のデザイン。中央のスチールとセラミック製の3段構造のローテーブルと共に、ギャルリ・サンカント・サンカントで手に入れた。

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アート作品のようなユニークなエントランス

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

修復に当たっては、当時の建築家クロード・コスティ本人の助言も得ながら、クリストフとローリモアは自ら職人として作業を担った。ベンチやベッド、シャワー、ソファなどを手作業で採寸してモデリング。オリジナルのドアや開口部も忠実に再現した。差し色として使われたサフランイエローやオレンジのトーンは、アルプスの陽光と響き合い、空間にぬくもりを添えている。

<写真>建築当初から残る、象徴的な玄関のトラペゾイド(台形)型ドア。鉄板と工具のパーツを組み合わせた構造にガラス繊維の“皮膜”で仕上げてある。壁の照明はリヨンの陶芸家マノン・オレの作品。左の棚にはエリック・アストゥールの彫刻と、アコレイによる馬のオブジェが見える。

周囲の自然を尊重する有機的な佇まい

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

敷地を囲む植生は極めて豊かで、野生の草花が季節ごとに姿を変え、庭からの眺めはアルプスがまるで浮かび上がるように広がっている。外部と内部の境界が曖昧なこの建築は、自然と人間の営みが共鳴する希少な例だ。室内からは、朝焼けに染まる山々、日没時の黄金色の稜線、夜の満天の星を望むことができ、その全てが生活の一部となる。

<写真>「泡の家」を横から見ると、階段の位置関係や屋根の角度、基礎の構造がよくわかる。有機的な曲線で構成された家の外殻は生き物のようにも見え、周囲の自然になじむ。テラスを囲む二等辺三角形が連続するスチール製の手すりは、オーナー自らが原形に忠実に修復した。

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家の形状に合わせて造作したラウンドベッド

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

かつては不遇な時期もあった「泡の家」は、フランス文化省による認定制度「重要な現代建築」に選ばれ、今や多くの人々に再発見されつつある。

<写真>ゲストの宿泊スペースとして、設けられたラウンドベッド。リネンは「クルール・シャンブル」、毛布とクッションは「メゾン・ド・ヴァカンス」。刺しゅうが施されたクッションは「CFOC」。右手の金属の彫刻はアントニーヌ・ド・サン=ピエールの作品『ビューグラー・ラ・トランペット』。


元キッチンを寝室へ大胆にコンバート

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

クリストフは述べる。「私たちはこの家の“所有者”ではなく、“案内人”でありたいと考えています」

<写真>棚の上段にはヴェロニク・ル・マルシャドール、ヘザー・ローゼンマン、ピエール・プシャンによる陶器や花瓶が並ぶ。下段にはオリヴィア・コグネの作品と、レ・フレール・クロチエによる花瓶をディスプレー。リネンは「クルール・シャンブル」、毛布とクッションは「メゾン・ド・ヴァカンス」。

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濃厚なクラフト感が漂うバスルームの一角

アルプス 泡の家
Nicolas Matheus

二人は単なる住人ではなく、この特異な建築の物語を次世代へとつなぐキュレーターでもあるのだ。

<写真>玄関と同じくバスルームのドアは、金属の加工職人リュシー・ルヴィルによるスチール構造に、ガラス繊維の“皮膜”仕上げ。オーナーであるスコット・ローリモアも“皮膜”を施す作業に参加した。洗面台は1966年竣工当時の造形を忠実に再現。タオルは「リソワ」のアイテム。


Realization:LAURENCE DOUGIER Photo:NICOLAS MATHEUS

『エル・デコ』2025年6月号

エル・デコ 6月号
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