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ブラジル サンパウロ インテリア実例 ルームツアー
Fernando Guerra

【ルームツアー】ジャングルに佇む、創造のためのサンパウロの豪邸

ブラジルの大西洋岸沿いに広がる森林地帯に佇む、建築家アーサー・カサスの週末住宅へようこそ。

ブラジルのサンパウロから車で数時間、大西洋沿岸に広がる熱帯雨林の保護区イポランガに立つ、建築家アーサー・カサスの週末住宅。木材とガラスを用いてシンプルな要素で構成された建物は、周辺の自然環境と調和し木々の間に溶け込むようにして佇んでいる。「エル・デコ」2025年6月号より。

静けさをまとった熱帯雨森のパビリオン

ブラジル サンパウロ インテリア実例 ルームツアー
Fernando Guerra

ブラジルの大西洋岸沿いに広がる森林地帯、アトランティックフォレスト(大西洋岸森林)。その森の中に建てられた建築家アーサー・カサスの週末住宅は、まるで透明な箱のような佇まいで、手つかずの自然の一角を眺める特別な展望台のような空間として存在する。カサスは語る。

「自分にとって、ここアトランティックフォレストは、ブラジルそのものを最も象徴する場所のひとつ。海やビーチ、カーニバルやサッカーよりもね。スケール、形態、多様性において唯一無二の風景と言えます」

<写真>隣国パラグアイにもまたがる森林の深い緑に抱かれるように立つ、アーサー・カサスの別荘。シンプルなボリュームと大開口によって構成されたこの建築は、敷地の自然環境に最大限配慮して設計された。高さ11mの吹き抜けを持つリビングが、光と風だけでなく森の気配をも取り込んでいる。

森との境界を曖昧にし内部と外部をつなぐ

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Fernando Guerra

娘のニナが生まれる直前、父となる彼は、娘を“緑の惑星”で育てようと決めていた。

「自然とじかに触れ合える場所に家を建て、そこで育てたいと思い付いたのです」と彼は振り返る。建築家の父が考えたのは、庭に置くような小さな家ではなく、森の中にあっても存在感を失わない住宅だった。

<写真>オープンリビングは、森と建築の境界が曖昧になるようにプランされた。床材は屋内外が連続するよう同じ木材を使用。視覚的にも建築的にも流れを損なうことなく、自然と共にある豊かな空間がつくり出された。中央に見えるのは家主でもあるアーサー・カサスのスタジオ。濃密な森の静けさの中で数々のアイデアが生まれていく。

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樹木のレイヤーが広大な敷地を覆い尽くす

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Fernando Guerra

「実を言うと私自身も、ずっと森林の中に家が欲しいと思っていたのです。エネルギーを取り戻すための場所が必要でした」とニューヨークとサンパウロに設計事務所を構える彼は添える。

<写真>森の奥深くにひっそりと現れる、ウッドの外装をまとった端正なカサスの建築。グリーンのモザイクタイルを張ったプール、石段でつながるテラス、大開口のリビングと、敷地の高低差を生かした屋内から屋外へと連続する水平性が際立っている。開口部の大きなガラスが周囲の樹々を映し出している。

ミッドセンチュリーの家具が広いリビングに集う

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Fernando Guerra

周辺の豊かでのびのびとした植生と対照に、この家は明確に対称的な構造を持つ。木の壁で覆われた2つの躯体と、両側をフルハイトのガラスのスライディングドアで閉じた吹き抜けの中央部で構成されている。1階にはリビングとダイニング、カサスのワークスぺースが、2階には主寝室があり、緑色のモザイクタイルで仕上げられたたプールを見下ろしている。

<写真>フルハイトのガラスのスライディングドアを持つリビング。上方の中央にまっすぐのびているのは、上階をつなぐ渡り廊下。手前のレザー張りのアームチェアとオットマンは、ブラジルのミッドセンチュリー期を代表するデザイナー、マルティン・アイスラーによる作品。白い大きなソファはカサスが「ミカサ」から発表した“フスカ”。

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創造を加速する伸びやかな大空間

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Fernando Guerra

「自然の混沌とは対照的な、均整の取れた建築を目指しました。一方で森に完全に没入している感覚も欲しかった。だから天井高が11mあるリビングを、両側からガラスのドアで挟んだのです」とカサス。

<写真>彫刻家としても知られるデザイナー、ハリー・ベルトイアによる“ワイヤーチェア”が並ぶダイニングコーナー。テーブルはカサスのデザイン。宙に浮かぶ木質の階段や、緩やかなゾーニング、プリミティブアートといった空間を彩る個性が、この週末住宅は創造のための拠点であることを物語る。正面のワークスペースにデスクに向かう彼が見える。

大自然の懐に抱かれるもう一つのリビング

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Fernando Guerra

このプロジェクトでは、建築家の感性と持続可能性が相反していない。積極的に自然光を取り入れ、自然換気を促す設計で、照明やエアコンの使用を抑える狙いがある。ガラスのほかに使用した主な素材は植林地から調達した木材で、屋内の床は全てこの材を採用。屋外でもテラスの床や外壁が同じ木材だ。

<写真>森を間近に感じるアウトドアラウンジ。ウッドデッキの中央に、「スタジオ・オブジェト」による木製フレームのアームチェアと、「エランサ・クルトゥラル」のテーブルがコーディネートされている。奥行きのあるロングベンチの向こうにプールが続く。

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圧巻の眺めが広がる“ジャングルラウンジ”

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Fernando Guerra

完成から数年を経て、この週末住宅は娘の教育だけでなく建築家のマインドセットにも十分貢献している。

「ドアを開け放ち、風や音、自然の香りを感じながら、同時に守られているような感覚が得られるのは心地いいものです」

<写真>テラス部分がそのまま森へとつながる開放的なアウトドアラウンジをリビング側から望む。右手の回転式ガラスドアはカサスのワークスペースの出入り口。アームチェア、ラウンドテーブル、ベンチは、サンパウロを拠点とするインテリアブランド、「スタジオ・オブジェト」のアイテム。手前のアートはブラジルの作家フェルナンド・ロドリゲスの作品。

森をフレーミングしたミニマルなベッドルーム

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クリエイティブな仕事をするために最適な静けさが得られるこの家に、カサスは仕事のためにも訪れる。ここでは朝6時過ぎに仕事を始め、昼食後は完全にオフラインというワークスタイルを楽しむと彼は言う。

「自分にはこの2つの要素、都会のコンクリートとジャングルの緑、そのどちらもが必要なんですよ」

<写真>スクエアな窓のフレームいっぱいに広がる樹木が、静けさを感じさせる主寝室。アトランティックフォレストの緑以外の装飾を排したミニマルな空間だ。茶色のペンダントライトはフィンランドの照明ブランド、「セクトデザイン」の“セクト4200”。


Photo:FERNANDO GUERRA
Original Text:FLAVIA GIORGI

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『エル・デコ』2025年6月号

エル・デコ 2025年6月号
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