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アートな「立体押し花」を制作するデザイナー、シャノン・クレッグ

独自の手法で生花を加工したオブジェ「ブーケ」。色鮮やかな花束が自立するユニークな作品はどのようにして誕生したのだろうか。

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シャノン・クレッグ
Elle Decor

シャノン・クレッグがイーストロンドンに構えるスタジオには、色鮮やかな花で仕立てられたオブジェが並ぶ。5年前に始めたプロジェクト「ブーケ」の作品だ。花を自作の金型で押し花に加工し、6週間かけて立体的な作品を生み出す。

『エル・デコ』2023年6月号より。


4年の研究を経て実現した「花瓶のような花」の構想

シャノン・クレッグ
Shannon Clegg

このプロジェクトに取り組むきっかけをつくったのは、彼女がマーケットを散策していた時に偶然見つけて購入したアンティークのネクタイ用プレス機だ。これが、当時すでに押し花を使った作品づくりを始めていた彼女に、インスピレーションを与えた。

写真 シャノン・クレッグが数年前から取り組むプロジェクト「ブーケ」から、ピンクのカンガルーポーを使った『ブーケ_03』

シャノン・クレッグ
Anna Olszewska

「そのプレス機を手にしてからプレス機の仕組みというものに興味が湧き、どうすれば立体的な押し花を実現できるのか考え続けました」

それからキュー王立植物園の植物標本室に通い、花の加工や保存に必要な技術と器具を研究した。さらに婦人用帽子の製造や粉末冶金についても調査を重ね、押し花を加工する金型を開発。4年間におよぶ試行錯誤の末、「ブーケ」が完成した。

写真 黄色のカンガルーポーが鮮やかな『ブーケ_03』。花に色付けはしておらず、自然の色を生かしている。

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シャノン・クレッグ
Anna Olszewska

南アフリカ共和国のケープタウンで育った彼女にとって、自然はいつも身近にあった。

「幼少期はいつも、外に出てツリーハウスや秘密基地をつくって遊んでいました。野山へ探検に出ると、そこにはいつも花がありました。私にとって花は、新たな発見の象徴のようなものです」

写真 故郷、南アフリカ特有の低木植生地域フィンボスがテーマの『アフリカズ メドウ』。

シャノン・クレッグ
Shannon Clegg

当初はテーラーを目指していたが、ある時、ファッションとは違う“ものづくり”がしたいとイギリスに渡った。その後、大学で工芸やプロダクトデザインを学び、ロンドンで制作活動をスタートした。

「クラフトデザインの力で、人間と自然のつながりを高めるためにはどうしたらいいのか――常に思いを巡らせながら、制作しています」

写真 スタジオにて、生花を加工する前に茎の状態を整える。次に金型を使い、加工していく。

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シャノン・クレッグ
Anna Olszewska

作品の素材として花を選んだ理由については、こう話す。「目まぐるしく移り変わる現代の世の中において、花は私たちに足を止め、目を開くことの大切さを教えてくれます。その美しさを無視して立ち去ることなどできませんからね」

また、「ブーケ」を花瓶のような形にした訳を尋ねると、「花瓶に入った花が置かれている体験を、何年も続くものにしたかったんです。水やりも花瓶も要らず、テーブルの上に花瓶のような花を咲かせる。永遠の花束とも言えますね」と語った。

写真 深紅のカンガルーポーを用いた作品。特別な保存プロセスを経た後に加工し、鮮やかな色を残す。作品の底面は、茎を折り込み美しく処理。 「カンガルーポーは茎に強度があり、花の彫刻的な形も気に入って使っています」

シャノン・クレッグ
Shannon Clegg

今後、野生の花で「ブーケ」をつくることも考えているという。「ただ、そのためには今までとは異なるデザインやプロセスが必要。それから、粘土などほかの自然素材を使ったものづくりにも興味があります」

切り花が一定期間で枯れてしまうのに対し、「ブーケ」は何年もの間、色鮮やかだ。可憐でありながら植物の生命力を強く感じさせるクレッグの作品は、インテリアに自然のエネルギーをもたらす。

写真 スターチスを使った『メドウ』も「ブーケ」プロジェクト。牧草地のように見えることからメドウと名付けた。

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Shannon Clegg(シャノン・クレッグ)

シャノン・クレッグ
Anna Olszewska

南アフリカ共和国生まれ。ファッション業界に携わった後、イギリスに移住。キングストン大学を修了し、現在は各国で植物を使った作品を発表している。

>>公式サイト

エル・デコ 2023年6月号

エル・デコ 2023年6月号
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