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藤本壮介 建築 インタビュー
Photo : ©DAICI ANO

【インタビュー】建築家・藤本壮介さんが語る「木造」の魅力と可能性

初めて手がけた住宅と2025年大阪・関西万博の大屋根リング。2つの木造について、設計した藤本壮介に話を聞いた。

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2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)の会場デザインプロデューサーを務める藤本壮介は、内径約615mの「大屋根(リング)」を木造で築くと発表した。振り返れば2005年、藤本が手がけた最初の住宅は木の家だった。木造にどんな魅力を見いだしているのか。 「エル・デコ」2023年4月号より。

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【大阪・関西万博】藤本壮介にインタビュー、なぜ万博のシンボルとして「大屋根リング」をつくったのか?

藤本壮介 建築 インタビュー
Photo : ©DAICI ANO

Q 最初の住宅である「T house」は、木の壁が放射状に立つプランでした。どのようにしてこの案に至ったのですか?

A まず、お施主さんであるご夫婦と子ども2人というご家族の住まい方を考え、壁が放射状に立ち、仕切られているけれど各部屋が完全には分かれていない、緩やかにつながって生活する家というコンセプトが生まれました。

<写真>和室から入り口を見る。畳に座ると視線が下がるので見え方が変わってまた面白いと藤本。右の壁にかかる絵は森村泰昌、右手前の人物像は袴田京太朗の作品。

藤本壮介 建築 インタビュー
Photo : ©Sou Fujimoto Architects

A(続き)
一般に木造家屋の柱は10.5cm角か12cm角。壁厚は12cmくらいです。厚さ12cmの壁を放射状に立てるとそのへりが真ん中に集中して重苦しい。もっと薄い壁が求められました。壁としては鉄板も考えられますが、冷たい感じがするし価格も高い。そこで、木の薄い板を家の構造に使えないか、構造家の佐藤淳さんと検討を重ねたんです。45mm角という細い材と構造用合板を組み合わせた薄い壁を屋内に8枚立てることで実現しました。

<写真> 模型を見ると壁のバランスが慎重に考えられたことがうかがえる。

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藤本壮介 建築 インタビュー
Photo : ©DAICI ANO

Q 「T house」で感じられる、木の家の魅力とは?

A 木造には多くの良さがありますが、一つには軽やかさ。木は家具に近い存在で人間の身体に近く、生活に寄り添ってくれます。材の細さや薄さで軽やかさを引き立てました。壁には白く塗った面と合板のまま残した面があります。白い面が交じることで材が木であることを意識するからです。白い部屋と合板の部屋では入ってくる光の色みが変わり、そうした違いも楽しめます。

お施主さんはアートが好きな方でアートと暮らすことも大きなテーマでした。美術館の真っ白な展示室のように作品を常に見せるのではなく、室内を歩く時に壁によって見えたり見えなかったりする。意外性と変化の中にアートを位置付けられる家ができたと思います。

<写真>白い面は、合板のままとした面とは対照的な滑らかな仕上げ。一部、引き戸がありシルバーの引手に手をかけるとすーっと動く。子どもたちは独立して家を離れたが、暮らしていた時は居室の戸を閉め切らず半分くらい開けて生活していたという。

藤本壮介 建築 インタビュー
Photo : ©Sou Fujimoto Architects

<写真>「T house」の黒を基調とした外観。引き戸を開けると中庭と家の白い壁が現れる。


「T house/2005年竣工」

木の壁で緩やかに仕切った大胆なプラン
藤本が初めて手がけた個人住宅。夫婦と子ども2人の4人家族のための家で、木造平屋、敷地面積は144.47㎡、延べ床面積は90.82㎡。薄い合板の壁が放射状に8枚立ち、ダイニングや寝室、和室などを緩やかに仕切っている。

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万博を象徴する建築を、木造でつくる意義

藤本壮介 建築 インタビュー
© 藤本壮介+ 東畑建築事務所+ 梓設計

Q 大阪・関西万博の大屋根(リング)で、どんな木の魅力を感じるでしょうか? 「T house」と共通するものはありますか?

A 大屋根(リング)の内径は約615m、高さは最も高いところで約22m。完成すると世界最大級の木造建築になります。内部空間はなく、人々が行き交う道のようなものです。

「T house」との共通点を挙げると、人が動くにつれて見える風景が変わること。その変化が面白さをもたらします。また木の軽やかさや柔らかさによって親密さも感じるはずです。圧倒的に大きく、同時に身近にも感じられる。振れ幅が大きいのも魅力になるでしょう。

<イメージ>大屋根(リング)外観イメージ。外周側がより高く、高さは約20m。CLT(直交集成板)と、光を入れる幕状の屋根をかけることが検討されており、雨風をしのぐことができる。

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© 藤本壮介+ 東畑建築事務所+ 梓設計

Q なぜ木造でつくるのですか?

A 万博の計画に着手したのが2020年頃ですが、その数年前から欧米の国々で木造を求められることが増え、木造に対する熱意が高まっていると実感していました。当時、国内では大規模木造はほとんどなく、日本は木造の伝統があるのにもったいないと思っていました。最近、オーストラリアの高さ182mの木造ハイブリッド建築の施工を日本の大林組が受注して話題になりましたが。

万博は自然素材を大々的に生かしたものになるはずで、大屋根(リング)こそ木造でつくるべきだと、早い段階で考えていたのです。

Q 欧米で木造の高層建築が増えているのは、なぜでしょうか?

A コンクリートで建物を建てる際に生じる二酸化炭素の量は莫大で、木材が見直されているからです。北欧など森林資源が豊かな国は集成材によって二酸化炭素を固定させることを推進しています。強度があり構造に使われるCLT(直交集成板)が注目され、プロジェクトが増えれば木造のコストも下がるでしょう。

<イメージ>会場パース図。海側では、大屋根の下をバスなどの公共交通機関が走行する予定。会場中央には「静けさの森」と名付けられた森ができる。

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© 藤本壮介+ 東畑建築事務所+ 梓設計

Q 大屋根(リング)は、どのような工法で建てるのですか?

A 京都の清水寺の舞台下のように、柱に梁や貫などの水平材を突き通して楔(くさび)で留める伝統工法に学び、現代的にアップデートした方法を用います。日本の伝統と未来とがつながることをメッセージとして見せたいのです。木が組み合わさって生まれる空間性や精緻な印象が、巨大スケールで実現すると素晴らしいだろうと予想しています。

現在の木造では、柱と梁の接合部に金属のプレートを入れ、金属のピンを打ち込むやり方がよく行われています。今回の大屋根(リング)では強度を出すために金属の部品を使いますが、最小限にして解体しやすくし、できる限り部材を再利用していこうと。通常は1カ所に何十本もの金属のピンを打ちますが、するとその部分は解体できません。金属の部品は今まさに開発中で3社の建設業者さんが携わり、それぞれ研究開発が進んでいます。

<イメージ>大屋根(リング)内、リンググラウンドウォーク内観イメージ。陸地に設けられた屋根の下は、巨大な集成材の柱が林立する大きな道のようになる。がっちり組み上げられた木が圧倒的な迫力をもって人々を出迎えるだろう。

藤本壮介 建築 インタビュー
© 藤本壮介+ 東畑建築事務所+ 梓設計

Q 木造にはさまざまな良さがあるとわかりました。木の可能性は大きいですね。

A それだけ普遍的な素材であるということでしょうね。人間が暮らす、活動する場所に現れる素材として相当にポテンシャルがある。そのポテンシャルはますます重要視されると考えています。

<イメージ>大屋根(リング)の上、リングスカイウォークのイメージ。リング上から万博会場を見渡せる。


「大阪・関西万博 大屋根(リング)/2025年竣工」

万博のシンボルとなる木造の大屋根(リング)
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ2025年4月13日~10月13日に開催。場所は大阪市夢洲(ゆめしま)。大屋根(リング)は会場デザインプロデューサーの藤本を中心として設計され、万博の象徴となる建築。完成時には建築面積(水平投影面積)約60,000㎡、高さ12m(外側は20m)、内径約615mの世界最大級の木造建築物となる。

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藤本壮介/Sou Fujimoto

藤本壮介
Photo : KENSHU SANNOHE

建築家。1971年北海道生まれ。東京大学卒業、2000年藤本壮介建築設計事務所設立。14年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞ほか数々の国際設計競技で1位に輝く。主な作品にハンガリーの「ハウス・オブ・ミュージック」(21年)、フランスの「ラルブル・ブラン」(19年)など。

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