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リビング・モダニティ 住まいの実験室 国立新美術館
MARIKO YASAKA

20世紀の名作住宅が集結する『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s–1970s』展リポート

ミース・ファン・デル・ローエによる未完のプロジェクト「ロー・ハウス」を世界で初めて原寸大展示。

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『リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s–1970s』展が、東京・六本木の国立新美術館で開催中だ。ル・コルビュジエやアルヴァ・アアルト、土浦亀城らが手がけた傑作14邸を例に、20世紀に始まった住宅をめぐる革新的な取り組みを多角的に検証していく。会場は2フロアで構成。天井高8メートルを誇る2階の展示室では、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエによる未完のプロジェクト「ロー・ハウス」が原寸大で実現した。


ル・コルビュジエの「窓」が来場者を迎える

国立新美術館 リビング・モダニティ 住まいの実験室
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会場エントランスに設置されたのは、巨大な窓。これは、ル・コルビュジエが1923年に両親のために設計した「ヴィラ・ル・ラク」の水平連続窓を再現したもの。本展でゲスト・キュレーターを務めたケン・タダシ・オオシマは、「来場者が『体験』できるような展覧会を目指した」と話す。

<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」国立新美術館2025年 展示風景


国立新美術館 リビング・モダニティ 住まいの実験室
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展覧会の中心となるのは、1920年代から70年代にかけて設計された14の住宅。「島」に見立てたそれぞれのテーブルに各住宅の写真、映像、模型、設計図をはじめとする資料が展示されている。テーブルを一周することで、そのプロジェクトの特徴や建築家の意図を理解することができるという仕組みだ。

一方、「衛生」「窓」「調度」「メディア」「素材」「キッチン」「ランドスケープ」というモダン・ハウスを特徴づける7つの観点を、7種類に色分けされたタペストリーで表現。解説と共に、14の住宅をつなぐ「海」のようなエリアに配置した。

会場をまわる際は、ぜひ展示台を支えるツールにも注目してもらいたい。ここには、モダニティを支えてきた重要な要素のひとつであるロジスティクス(物流)を象徴するパレットが使われている。このパレットは、本展の後も再利用される。

<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」国立新美術館2025年 展示風景

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7つの観点のひとつ「窓」 をテーマにしたセクションでは、バングラシュ国会議事堂なども手がけたルイス・カーンによる「フィッシャー邸」を紹介。写真は、2階分の高さがある居間の北東に開けられた窓。つくり付けのベンチと合わせ、会場に再現した。

<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」展示風景より、ルイス・カーン「フィッシャー邸」の窓を再現。

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アルヴァ・アアルトが自らが夏を過ごす家として建てた「ムーラッツァロの実験住宅」は、本展では「ランドスケープ」「衛生」「素材」という3つの観点から検討された。アアルトは建設の際に約50種類のレンガやタイルを試すなど実験を繰り返し、ここで得た知見を他の建築へと応用していった。

<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」展示風景より、アルヴァ・アアルトによる「ムーラッツァロの実験住宅」(1954年)。模型のほか、設計・建設時に検討されたブロックやタイルを展示。

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<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」展示風景より、ルイス・カーン「フィッシャー邸」(1967年)











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「聴竹居」は、藤井厚二が約4万平方メートルという広大な土地に建てた木造住宅のひとつで、藤井が家族と暮らした自邸。藤井は妻壁(切り妻屋根の三角の外壁)の換気窓などを設けて室内環境を整え、近代的な家電を導入することで家事の軽減を追求。また、家具や照明、じゅうたんといった調度品を自らの手でつくった。

<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」展示風景より、藤井厚二「聴竹居」(1928年)。中央に見える球体の器具は、穏やかな波を描く青海波をモチーフにした暖房器具(1931年推定)。

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<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」国立新美術館2025年 展示風景。「バウハウス」にまつわるエリア。

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フランク・ロイド・ライトのもとで建築を学んだ土浦亀城と妻の信子が、日本における新たな住宅像を追求した「土浦亀城邸」。土浦はドイツで考案された鉄骨造の「トロッケンバウ(乾式工法)」を木造に応用。さらに、敷地内に残された蔵の基礎や土地の高低差などを利用してスキップフロアを導入することで、変化に富んだ空間構成を実現。本展では、その構造の特徴を、模型などを使って明らかにした。

<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」展示風景より、土浦亀城「土浦亀城邸」(1935年)

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エーロ・サーリネンが、インテリアをデザインしたアレクサンダー・ジラードとランドスケープを担ったダン・カイリーと協働した「ミラー邸」の展示では、多種多様な生地と色をダイナミックに使ったインテリアまで反映した模型が登場。これに加え、ジラードがテキスタイルを貼って作成した平面図パネルや、色見本なども紹介している。

<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」展示風景より、エーロ・サーリネン、アレクサンダー・ジラード、ダン・カイリー「ミラー邸」(1957年)


国立新美術館 リビング・モダニティ 住まいの実験室
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1920年代に建てられたオランダ植民地風のバンガローを取得したフランク・ゲーリーが、これを残しつつ、拡張・増築することによってつくり上げた自邸。模型や建築過程を収めた写真から、波型鋼板や金網などありふれた材料が即物的に用いられている様が見て取れる。

<写真>「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」展示風景より、フランク・ゲーリー「フランク&ベルタ・ゲーリー邸」(1978年)



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ミース・ファン・デル・ローエの「ロー・ハウス」原寸大模型

リビング・モダニティ 住まいの実験室 国立新美術館
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本展の大きな見どころが、近代建築の巨匠ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエによる未完のプロジェクト「ロー・ハウス」の原寸大展示だ。こちらの会場は、2階の天井高8メートル。模型のスケールは幅16.4メートル×奥行き16.4メートルに及び、原寸大での制作は、世界初の挑戦となる。

「ロー・ハウス」は、ミースが1930年代に検討していた中庭つきのコートハウス建築群のひとつ。連棟式に建つ3軒の住宅のうちの1軒として設計された。ミースが残した図面や資料をもとに模型を制作する上で監修を務めた岸和郎は、「100年近くの時を経て、ミースの弟子になった気分です」と感慨深げに話した。

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鏡面仕上げとした柱をはじめとする素材やディテールは、岸や本展の会場構成を担当した長田直之が、当時ミースが手掛けていた作品などを参考に決めた。

家具については、ミース自身がデザインしたものを配置。長田は、家具と空間のバランスについてこう話す。「“バルセロナ・チェア”には、かなり大きい椅子という印象を持っていたけれど、『ロー・ハウス』の室内にほどよく収まる。ミースが家具と空間をトータルに考えて設計していたことが実感できました」

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国立新美術館 リビング・モダニティ 住まいの実験室
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中庭を想定したスペースから室内を望む光景。会場内では、光の色や加減を調節することにより、日の出から夜間に至るまでの1日の流れを、6分30秒ごとに表現している。









国立新美術館 リビング・モダニティ 住まいの実験室
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同じく会場2階には、本展と関わりの深い名作家具を間近で見ることができるコーナーも。国内外のブランドが、時代を超えて生き続けるモダン・デザインの数々を展示する。

人々の生活を大きく変えた「モダニティ」の源流を辿る本展で、20世紀の建築家たちが試みた数々の「実験」を見つめ、私たちが生きる現代の暮らしをいま一度、新鮮な目で捉え直してみたい。


リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s–1970s
会期/2025年3月19日(水)〜6月30日(月)
会場/国立新美術館 企画展示室1E、2E
住所/東京都港区六本木7-22-2
時間/10:00〜18:00 ※毎週金・土曜日は〜20:00 (入場は〜閉館の30分前)
休館/毎週火曜日※ただし4月29日(火・祝)と5月6日(火・祝)は開館、5月7日(水)は休館
※2階企画展示室2Eの展示はチケット不要で鑑賞可能

巡回情報
兵庫県立美術館
会期/2025年9月20日(土)〜2026年1月4日(日)

公式サイト

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