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モダン陶芸 ヴィヴ・リー viv lee
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今注目すべき、モダンな陶芸を生み出すヴィヴ・リーとは?

スコットランドを拠点に活動する、香港出身の陶芸作家にインタビュー。

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柔軟な視点で陶芸を捉え、独自性の高い作品を発表する気鋭作家に注目。陶芸とデザインの未来を感じさせる制作活動に迫る。「エル・デコ」2025年6月号より。

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大地への祈りを込めてつくられる、たおやかな陶器

モダン陶芸 ヴィヴ・リー viv lee

香港で生まれ、現在はスコットランドを拠点に作陶を行うヴィヴ・リー。彼女が生み出す陶器は、自然への畏敬の念を感じさせる。それは岩のような表面のざらつきや、祭具を思わせるプリミティブな形状によるものなのか。あるいは、素材に対する彼女の思いが反映されているのだろうか。

セラミックアーティストとしての道を歩み出す前、グラスゴーで彫刻を学んでいたリーは、粘土という素材に触れて衝撃を受けたと振り返る。「心が落ち着き、自分の内面が変容していくのがわかりました。大地の素材である粘土は、控えめであるけれど時代を問わない魅力を備えています。また、遠い過去と強く結びついていて、多様な表現を可能にしてくれるのです」

<写真> ヴィヴ・リーが手掛けた作品。スコットランド産の粘土で調合した釉薬が独特の風合いをもたらす。形には貝や鳥など、自然を表現するものが少なくない。

モダン陶芸 ヴィヴ・リー viv lee

こうして本格的に作陶を始めたリー。彼女の作品づくりには、アジアとヨーロッパに古くから伝わる信仰や慣習が多大な影響を与えている。「特に古代の人々が、自らの住む土地やそこで採れる材料について深い知識を有し、それらを敬っていた点に影響を受けています」 

こう語るように彼女自身も、同じくアーティストである夫と共に、フィールドワークに出ることが多い。 「グラスゴーは緑豊かで、少し足をののばせば渓谷や湖があります。こうした風景に着想を得て、作品の色や形状、テクスチャーに生かしています」

<写真>グラスゴー近郊の山で粘土を採取するリー。「制作に地元の素材は欠かせない」と語る彼女は、天気がよく乾燥した日には、作品に使う素材を探しに出る。環境への影響を最小限にとどめるため、ごく少量を手作業で採取している。

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モダン陶芸 ヴィヴ・リー viv lee

行く先々でリーはさまざまな素材と出合い、自身の制作に活用している。天然の粘土は陶器の表面を仕上げるのに使い、海岸で見つけた貝は釉薬にする。身近な素材を使うことで作品の印象は大きく変わるのだとリーは話す。「それぞれの個性が生きるように素材と向き合うことを心がけているのですが、結果として私の作品には、有機的な雰囲気がもたらされるようです」

近年、陶芸は世界的に高い関心を集めているが、その要因の一つには、こうした制作プロセスがあるのではないだろうか。というのも、鑑賞者や使い手は、作品を通して、アーティストの思いをのせた手の動きを直接的に感じることができるから。リーも、これにうなずく。「多くの人が、デジタルな世界とは対極にある、実体を伴う“モノ”を求めています。スクリーンの向こう側にある現実世界と、再びつながりたいと考えている人が多いのではないでしょうか」

<写真>スコットランドの大地になじむリーの作品。彼女は、アニミズムや祖先信仰を感じさせる、先史ヨーロッパや中国古代文化の祭具に強く引きつけられると語る。

モダン陶芸 ヴィヴ・リー viv lee

最近は環境に負荷をかけない制作手法も模索している。「地元で採取した粘土を加工する際には、排出される砂なども無駄にせず、釉薬の原料として使っていけるといいですね。また不要な陶器を再利用し、粘土をつくることも考えています」

大地の恵みである素材に対して常に敬意を払い、それを媒体に人間や土地の記憶を作品へと昇華するヴィヴ・リー。彼女の手から生み出される陶器が、祈りにも似た感覚を呼び起こす理由は、ここにあるのだろう。


Viv Lee(ヴィヴ・リー)
香港生まれのセラミックアーティスト。2017年にグラスゴー美術学校を卒業後、グラスゴー東部を拠点に活動。自ら採取した土を用いた彫刻的な陶芸作品を制作している。
公式サイト

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『エル・デコ』2025年6月号

エル・デコ6月号
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