100年の歴史を誇り、その高貴な美しさから「マラケシュの貴婦人」と称されるホテル「ラ・マムーニア(La Mamounia)」。昨年初めて発表された「世界のベストホテル50」で6位、アフリカ大陸ではトップに輝いた、世界中の旅ラバーやセレブたちの心を掴んでやまない魅惑の楽園だ。
2023年に100周年を迎え、数か月の改装期間を経て装い新たに再オープン。時を超えて愛される魅力にエディターが迫る。
※1MAD=約16.3円(2024年7月8日時点)
マラケシュ・メナラ空港からホテルまでは、専用の送迎車で約15分。照りつける太陽と、テコラッタ色の土壁に圧倒的な異国情緒を感じていたらあっという間にたどり着く。エキゾティックな街の喧噪とは対照的に、悠然と佇む門扉。このアンビバレントさがたまらなくかっこよくて、一歩踏み込んだ先の想像をかきたてられる。
「ラ・マムーニア」は、かつて18世紀の国王が、王子の結婚祝いに贈呈した庭園「アルサット・アル・マムーン(神の国の庭園)」を起源とする、由緒正しきホテルだ。
セレブに愛され続ける超名門ホテル
マラケシュといえば真っ先に思い浮かぶのは、その色彩に惚れ創造の源にしたムッシュ・イヴ・サンローラン。「マジョレル庭園」に別荘を所有し、頻繁にこのホテルにも足を運んでいたのは有名な話だが、「ラ・マムーニア」を語るうえでセレブの存在は欠かせない。
ファッション界にとどまらず、映画界からはチャールズ・チャップリンをはじめリュック・ベッソン、フランシス・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシなどの巨匠のほか、音楽界や王室、政界からも錚々たる面々がゲストリストに名を連ねている。館内には近年セレブたち(写真)が訪れた際のポートレートや手書きメッセージを展示しているスペースがあり、ここがいかに世界的スターに愛されてきた超名門ホテルであるかを実感する。
燦然と輝くモロッコの美意識に引き込まれる、非日常へのドア
送迎車を降りた瞬間、美しすぎるエントランスに圧倒された。色とりどりのタイルに、繊細なアラベスク模様や彫刻、アールデコ様式が精緻に組み合わされつつも均整を保ち、モロッコの洗練された美意識を詰め込んだ芸術作品のよう。世界最高峰の風格を感じる、気品あふれる華やかさに、ときめきが止まらなかった。
100年という歴史の威厳を感じつつも、このホテルからは不思議と古さをまったく感じない。伝統の奥ゆかしさと新しさが共存し、より格式高いラグジュアリーを紡ぎだしている。それは「何も変えない為に、全てを変える必要がある」をモットーに、折にふれてリニューアルを重ね「今」の空気を常に取り込んできたから。100周年を迎えた2023年には、数か月にわたる改装が行われたが、その目玉となるのがロビーに新しく設えられた大胆かつしなやかに光り輝く巨大なシャンデリアだ。
エントランスを入った瞬間に目を奪われる、仰ぐほど大きなシャンデリア。2連のネックレスを思わせるデザインが「マラケシュの貴婦人」の名にふさわしく、より高貴にホテルを輝かせている。デザイン監修は、フランス出身の世界的デザイナーであるパトリック・ジュアンとカナダ人建築家のサンジット・マンク。現在改装中の「パーク ハイアット 東京」も手がけている気鋭の建築デザインデュオだ。
シャンデリアの着想源は、モロッコの伝統的なジュエリー。内側の赤いロープには500個以上のペンダントが揺れ輝くが、すべて地元職人による彫刻や型押しなど手作りで仕上げられたというこだわり。外側は世界的なガラス製照明器具メーカーの「ラスビット(Lasvit)」とのコラボレーションによるもの。1連目は伝統、2連目はモダンというところに「ラ・マムーニア」の真髄を感じる。光が水面に揺れ、さらにはその下にあるミラースクリーンに反射してなんとも幻想的な世界を作り上げている。
夢見心地な客室はまるで宝石箱
客室に到着するなり、モロッコの伝統的な美を詰め込んだ宝石箱のような空間に息をのんだ。カラフルなタイル使いに緻密な彫刻など、地元職人による細やかな手仕事が光る装飾が美しすぎていつまでも見ていたくなるほど。アートを飾るホテルは多々あれど、ここは館そのものが芸術作品のようで、夢見心地な時間にどっぷり浸った。
そして特筆すべきは、テラス越しに抱くダイナミックにして繊細な庭園。モロッコの強い太陽によって、刻一刻と違う表情を愛でられるのもこの国ならではの風情だ。遠方にはアトラス山脈を望み、その先にあるサハラ砂漠に思いを馳せながらここがアフリカ大陸であることを改めて感じ、エキゾティック気分を盛り上げる。
砂漠の国のオアシス。プリミティブと洗練が共存する庭園に恋した
この広大な庭園を散歩するのも至福の時間。見たこともないほど大きなオリーブやデーツ、レモンにさまざまな彩りのバラやコスモスが生い茂り、聞こえてくるのは鳥たちの愉快な鳴き声。そんななか、猫が思い思いに散歩する姿にすっかり心がほどけた。
“育ちっぱなし”な印象のプリミティブな部分と、均一にカットされたモダンな植木の相反するコントラストが、まさにこの庭園の個性。ただ歩いているだけで心がアクティブになり、同時にカームダウンさせてくれる。個人的には名所「マジョレル庭園」よりも、この庭園に恋をしたほどだ。
クワイエット・ラグジュアリーを体現する至福のプール&スパ
館内には2つのプールがあり、木々が生い茂る庭園に溶け込む屋外プールのほか、屋内のスパエリアにも。白と青を基調とした、イスラム建築を思わせる静かな空間でロワイヤル気分を満喫できる。建築美に見惚れながらゆったり泳ぎ、ジャグジーでからだをほぐした後は、本格的なトリートメントへ。思いっきりラグジュアリーにしたトルコ式の伝統的なパブリックバス「ハマム」を通って個室へ移動し、静寂の中で施術が始まる。
今回受けたメニューは60分のボディトリートメント(1,500MAD)。「ラ・マムーニア」による濃厚かつ軽やかなオリジナルの100%アルガンオイルをたっぷり塗布され、なめらかに素肌が磨かれていく。エステティシャンの技術力は高く、ほどよい圧を加えながらリンパを流すリズミカルさに眠気を誘われた。全身を流しながらほぐしていき、仕上げはデコルテと首、頭皮。肩はアグレッシブに動かしてしっかりコリを解消させてくれる配慮もうれしい。あっという間の1時間で体も頭もスッキリ! 長旅の疲れもすっかり吹き飛んだ。
壮麗なリヤドで本場モロッコの美味に舌鼓
ここでは食体験も一流。まずは本場のモロッコ料理が食べたいと真っ先に向かったのは、庭園の奥に佇む「ル・マロカン(Le Marocain)」。3階建てのリヤドでコンテンポラリー・モロッカンをコース(1,100MAD~)で楽しめる。
前菜でチョイスしたモロッコサラダは10種類以上もの料理がずらりと丸盆に盛られ圧巻のボリューム。彩り豊かな野菜のほか新鮮なラムレバーの皿もありワインが進む。伝統的な牛肉のタジンは濃密なトマトソースと絡んでクセになる味わい深さ。夜が深まるにつれ賑わいをみせるエレガントな空間で、正統派の伝統モロッコ料理に触れられる名店だ。
巨匠ジャン・ジョルジュによるイタリアンとアジア料理も見逃せない
さらに2020年の改装で新たに誕生したのが、モダンフレンチの巨匠ジャン・ジョルジュが監修するイタリアンとアジア料理のレストラン。
屋根付きのテラスを通してガーデンとシームレスにつながり、陽光と風が気持ちいい「イタリアン by ジャン・ジョルジュ(L'Italien par Jean-Georges)」は、アイランドキッチンが活気づくフレンドリーな空間が印象的だ。薪窯で焼き上げる人気のピザ(310MAD~)や、さっくり軽やかな揚げ具合が絶妙のクリスピーカラマリ(370MAD)など、クラシックから創作料理まで豊富にそろう。ホテルオリジナルのモロッコ産ワインや、「テタンジェ」とコラボしたシャンパンとともに、アラカルトで気軽に楽しめるのがうれしい。なかでもプラウン・スパゲッティ(430MAD)は、シンプルながらもエビやガーリック、オリーブオイルのうま味にパンチがきいていて最高においしかった。
モロッコの伝統的な建築スタイルをモダンに昇華したエキゾティックな空間で、アジア料理を楽しめるのが「アジアティーク by ジャン・ジョルジュ(L'Asiatique par Jean-Georges)」。中華から和食、タイ料理にベトナム料理まで実に多彩なラインナップ。
酸味のきいたジンジャーガーリックソースでさっぱりとしたツナタルタル(360MAD)や、パイナップルと相性抜群のブラックペッパーシュリンプ(280MAD)、カリモチ食感が印象的な野菜の春巻き(250MAD)など、アレンジの技が光るメニューはあれもこれもとオーダーしたくなるものばかりだ。
あまりに美しい非日常体験の数々。夢を見ていたかのような余韻が後を引き、人生のベストホテルを更新した。「ラ・マムーニア」は、世界を旅する喜びを教えてくれるに違いない。
ラ・マムーニア(La Mamounia)
Avenue Bad Jdid, 40040Marrakech-Medina, Maroc
Tel.+212-524-388-600
宿泊料金/1泊1室5,100MAD~(税・サ込み)
問い合わせ先/ザ・リーティングホテルズ・オブ・ザ・ワールド(Tel.0120-086-230)
公式サイト