Silica GelやBalming Tigerも。フェスで注目の韓国バンド&オルタナティブアーティスト4組を解説【2025年】
韓国バンドブームの最前線は? フジロック&サマソニに集結する、今最もホットな韓国バンド&オルタナティブ集団4組をフィーチャー

2025年7月25日~27日に開催される「フジロックフェスティバル '25」と8月16日~17日に開催される「SUMMER SONIC 2025」に、今大注目の韓国バンド&オルタナティブアーティスト4組が集結。HYUKOH & Sunset Rollercoaster(落日飛車)によるプロジェクト「AAA」、Balming Tiger、Silica Gel、The Roseの魅力や必聴ソングを、韓国インディ音楽を中心に公演企画及びコーディネーターを手掛ける内畑美里さんが解説!
ヒップな音楽=バンドミュージックに!

“韓国ロック”というと昨年チャートを沸かせたDAY6やQWERが思い浮かぶかもしれない。確かに、音楽評論家が「2024年はDAY6の1年だった」と口を揃えて言うくらいものすごい勢いがあったのは事実。とはいえ、ファンダムの影響を大きく受けるチャートだけで韓国のタイムリーな音楽や本当にローカルに根付いている楽曲を測りきることはできないというのが正直なところ。
そして今、大衆のリスナーが「これを知っていたらイケてる」って思うような“ヒップな”音楽がバンドミュージック。コロナ禍まではヒップホップがトレンドの中心にあって今も根強い支持を集めるアーティストは多くいるものの、フレッシュな音楽・ヒップな音楽といったら完全にバンドというのが今の潮流だ。
日本のロックバンドとの立ち位置の違いって?
韓国ではK-POPとOSTなどのバラード系が非常に強いためチャートのトップにも当然君臨してくるが、常にバンドミュージックはローカルに根付いていて、各時代にその年代を象徴するバンドがいる。日本のような、TVへの頻繁な露出はないものの、ポップスが強すぎるという要素を除いて考えれば日本と少し似ているようにも感じられる。
韓国バンドカルチャーを支持する世代層は?
ニッチでマイナーな楽曲を自分だけは知っているんだと自己陶酔させるような現象を、音楽の街「ホンデ(弘大)」に「病」とつけて“ホンデ病”というワードで表現することがあるが、そのように大衆層まで届くインディ・バンドの中心にあるのがSilica Gel。DAY6にも共通することだが、自分と同じような悩みや憂鬱感を持っているんだと共感できる歌詞がファンを集めている。10代の学生から20代・30代の若い世代が韓国バンドブームの中心だ。
今回のフジロックのラインナップに見られた変化とは?
これまでもフジロック、SUMMER SONICともにアジアのアーティストは多く出演していて、特にSUMMER SONICはアジアのアーティストを集めた「ISLAND STAGE」が過去に存在していたり、ここ何年かはK-POPアイドルや、去年はAKMUのようなアイドルではないアーティストも招聘している。フジロックにも過去にHYUKOHやBalming Tigerが出演。
そんな中で今年これまでとはっきり違う点は、アイドルではないアジアのバンドアーティストがヘッドライナー級の立ち位置で名を連ねているところ。フジロック1日目に出演するHYUKOH & Sunset Rollercoaster(落日飛車)によるプロジェクト「AAA」は、ヘッドライナーに次ぐ位置でピックアップされている。
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HYUKOH & Sunset Rollercoaster(落日飛車)
日本でも名の知れた韓国のバンドHYUKOHと台湾のバンドSunset Rollercoasterによるプロジェクト「AAA」は、Sunset Rollercoasterが2017年に行ったソウル公演にHYUKOHのメンバーも遊びに来ていた、というのが交流のきっかけ。ファッションの趣味が近かったり他のフェスで一緒になるなど、アジアのバンドとしてそれぞれの国の第一線で活動していく中でプロジェクトの制作に至った。
アルバム制作に関して「お互いに愛とリスペクトを持って作っていきたい」と語った通り、アジアのバックグラウンドを持つ者同士であることを軸に置いている。中国の標準語に当たるマンダリン語の歌詞や、何語にも見えないような「AAA」のロゴアートワーク、そして「AAA」という言葉には“オールエリアアクセス”という意味が込められているなど、言語を超えた交流やアジアメンタル的な部分を意識した要素が随所に感じられる。
2024年に開催された日本公演はチケット完売の大盛況。演奏、ステージ構成や演出、そして衣装やフライヤーに至るまで、バンド・エンターテインメントとクリエイションの完成度の高さが光ったライブはクリエイターからも大絶賛!
動画/「young man」は未来への漠然とした不安を歌詞に、サウンドは対照的にポップに昇華したAAAの代表曲。MVの監督は、Balming Tigerはじめ様々なアジアのアーティストのMV監督を務めるPennacky。
ちなみにSunset Rollercoasterは、2009年に結成・一度解散してから2015年に再始動したというキャリアの持ち主。台湾インディーシーンに激震を起こした衝撃作、そして日本リリースもされた「JINJI KIKKO」を知っている人も多いのではないだろうか。
日韓のみならず欧米でも“アーバン・ロック”、“AOR(Adult Oriented Rock)”のバンドとして紹介されることが多いSunset Rollercoaster。2023年、コーチェラ出演という大躍進をひと押ししたのは、欧米や英語圏におけるシティ・ポップブームだと考えられる。都会的で洗練されていてちょっとソウルフル、ジャズの要素もあってポップスとしても聴ける彼らの音楽の空気感が、時代性とマッチした。
プロジェクトAAAからリリースされたアルバム『AAA』は、HYUKOHやSunset Rollercoasterの単体で聴くアルバムより、淡々としていてストイックな一作。
アンサンブルにおける緊張感・ライブ感。そしてアジアのオリエンタルな雰囲気を強く感じるサウンドは、Sunset Rollercoasterのサックスの音もポイントとして活きている。決して派手ではなく音がたくさんあるわけでもないのに、アルバムとしてすごく完成されているのは、2グループのキャリアが成すクオリティだ。
「バンドって友達とやるのが楽しいでしょ」と、バンド活動の本質についてオ・ヒョクが語った言葉の通り、どこか肩の力が抜けた、商業性に縛られていない自由さも感じられる。
動画/メンバー全員が本作で一番好きな曲に挙げる「Y」。ループするフレーズに様々な音の表情を展開させていく、ミニマルで鮮やかな名曲。フジロックで是非聴きたい。
Balming Tiger
Balming Tigerはいったい何なんだって言われると“分からない!”というのが魅力。ラッパー、シンガー、映像監督、A&R、DJ、トラックメーカーなど、広義のアーティストと表現者11人が集まったグループは、K-POPとオルタナティブが掛け合わさった“オルタナティブK-POP”と自称している。
Balming Tigerの母体となる電子音楽パーティークルーの結成後、ラッパーのOmega Sapienや女性シンガーsogummが加入すると、楽曲のユーモラスさやエッジーさが更にアップ。
メロディがちゃんとあるもの…と思えばミニマルなラップをやり始めたり、新しい学校のリーダーズとのコラボソング「Narani Narani」ではオルタナティブ・カルチャーが交差するようなユニークな楽曲を打ち出した。縦横無双・自由奔放といった、この何とも形容しがたい自由さがBalming Tigerらしさであり、歌を歌うという意味のアーティストのみならず様々な分野のアーティストが集まっているからこそ、このカオスが個性として成立するのだろう。
動画/ユニークなダンスが印象的な、ライブで盛り上がる必聴曲「Buriburi」。フジロックで踊りたい!
Balming Tigerを世界的に知らしめたきっかけは、言わずもがな「SEXY NUKIM」。BTS RMがフィーチャリング参加したこの曲はiTunesのワールドワイドソングチャートで1位を記録し、元より国内外で人気があったBalming Tigerをもうワンステップ飛躍させた。
“アジアのセクシーさってなんだろう”という模索からスタートした「SEXY NUKIM」の制作では、セクシーをキーワードに楽曲の肉付けをしていったものの、どこか物足りなさを感じて初のフィーチャリングを打診。BTSのRMが名前に挙がると「もう少し現実的になろうよ」というような声もあった中で、たまたまメンバーの1人がBTSのプロデューサーのSupreme Boiと大学の元同級生で繋がりがあり、RM側もすぐに快諾してくれてこの奇跡の共演が実現。
動画/アジアンセクシー、アジアンクールというキーワードをベースに、内面的“セクシー”をミニマムなサウンドで表現した「SEXY NUKIM (feat. RM of BTS)」
2023年にはイギリスの大型フェス グラストンベリー・フェスティバルに出演。韓国のアーティストでは、もともと欧米で著名なDJ/トラックメーカーのペギー・グーやK-POPスターのSEVENTEENがステージに立ったことがあるものの、メインステージに立つのは異例のことで、BTS RMが「SEXY NUKIM」に参加したことの影響は絶大!
また、Balming Tigerが主題歌を提供したドラマ「東京サラダボウル」には、最後にOmega Sapienがゲストとして登場するシーンもある。
Silica Gel
2015年より活動開始・メンバ-脱退などの末に現在の4人編成に落ち着いたSilica Gelは、もともとホンデのインディーズバンドとして活動し、メンバーの兵役の経て2020年にカムバックした楽曲「Kyo181」で高評価を獲得。続いて2022年にリリースした「NO PAIN」は自らを代弁してくれるような歌詞の共感性が若者の支持を呼び、キャッチーなサビも相まって韓国国内で人気が爆発した。
日本で有名になったきっかけは、K-POP市場が一気に世界に浸透して他ジャンルの音楽にもアンテナを張る人たちが増えたことがひとつ言えるだろう。韓国側も海外の人にリーチしやすいよう、SNSプロモーションに英語を並記したりプレイリストを作成したり、言葉ではなくアーティスティックな写真で魅せるなどの工夫を取り入れた。
動画/「NO PAIN」は、Silica Gelを韓国一大バンドブームの中心へ連れて行った大ヒット曲。痛みと伴った過去からの独立と連帯、そして希望的な歌詞が多くのリスナーの共感を呼んだ。
音楽性は、Balming Tigerとはまた違う前衛的なオルタナティブさ。メンバーは芸術学部出身でアートに精通しており、現代アート的なアプローチがあちこちにちりばめられている。音楽のジャンルも、サイケロックからフォーク、ポップス、インディロック、そして韓国の歌謡曲まで、各々が好きなサウンドのエッセンスが合流。ギターのキム・チュンチュのプレイもフィーチャーされるが、シンセサイザーの音の使い方にも注目。Silica Gelのシンセサウンドに影響を受けた今の世代のバンドが、その要素を取り入れるという現象まで起こっている。
結成から今に至るまで音楽性やクリエイティブが一貫しているインディペンデントな一面もあり、友人が経営しているアパレルブランド「ハロミニウム(Halominium)」を衣装として着用。「NO PAIN」や「Kyo181」のMVを手がけ、シンガーソングライター Meaningful StoneやアーティストのHWIなどのMVも手がけるMELTMIRRORとの長い付き合いなど、「あくまでもインディペンデントでいたい」という意思を感じるような制作陣だ。
動画/ファーストアルバム『Silica Gel』収録曲で今でもライブで披露される「9」は、オーディエンスが盛り上がる一曲。
The Rose
「SUMMER SONIC」に出演する韓国の4人組バンド The Roseは、韓国国内の記事で“逆輸入”と称されるような、韓国よりも欧米で人気のあるバンド。音楽の街・ホンデにはストリートライブを行うエリア“バスキン”の文化が根付いているが、The Roseはまさに2017年の結成後、バスキンから地道にスタートした。
韓国国内で知名度が上がるポイントとなったのは、6年前に韓国の通信会社のCMに楽曲が使われて自身も出演したこと。また、欧米で名前が広がった一つの要因には、2018年に米「ビルボード」の年間批評ソングというコラムにThe Roseが他のK-POPアーティストに並んで紹介されたことが考えられる。
動画/ライブでシンガロングが起こる、2ndフルアルバム『DUAL』に収録された人気曲「Back To Me」。エネルギッシュに駆け抜けるロックサウンドが爽快。
ブリティッシュロックをベースにしたサウンドの厚みはある意味韓国のバンドらしくなく、その音楽性も英語圏にヒットしたのかもしれない。その後、事務所を移籍してコロナ禍が明けたあとに行ったワールドツアーが大盛況。
来場したファンの8割以上を女性が占める女性人気も特徴のひとつで、2024年のコーチェラの会場にはペンライトを持ったファンたちも集まった。現地では、甘いルックスとサウンドの渋さを兼ね備えたバンドだと評価されている。
動画/2年の空白期間を経てリリースされた1stフルアルバム『HEAL』の最後に収録されている「Sour」(厳密には最後から2番目の曲だが、最後の曲はアルバム全体のアウトロ曲のため)。ファンへの想いをメロディックなサウンドに乗せて綴るこの楽曲は、ライブ終盤での定番曲。
Silica Gelらをきっかけにバンドミュージックが一つのトレンドとなった今、韓国ではバンドやポップスなどアジアの様々なアーティストを集めたフェスが行われるなど、ますます盛り上がりを見せるバンドカルチャー。世界的に注目されるBalming TigerやHYUKOHとSunset Rollercoasterによるプロジェクト「AAA」、The Roseとともに、フジロック&サマソニでの4組のパフォーマンスを楽しみにしたい!