『ベイビーわるきゅーれ』の殺し屋、『御上先生』の秘密を抱える優等生、Netflix『グラスハート』の闇深い女性シンガー、そしてNHK朝ドラ『ばけばけ』のヒロイン……と、話題作への出演が引きも切らない人気俳優・髙石あかり。そんな彼女が「俳優としての起点となりそうな作品」と位置づけるのが、最新主演映画『夏の砂の上』だ。

髙石演じるのは、ひょんなことから、オダギリジョー演じる叔父・治と同居する羽目になった高校生・優子。カラカラに渇水する夏を舞台に、渇ききった二人の心が近づいていく過程を丁寧に描いたドラマで、彼女が俳優として初めて経験したこととは?

この作品で芝居への考え方が変わった。経験を携えながらこれからも「映画」をやりたい
a person wearing a patterned outfit with a vibrant floral design
ZENHARU TANAKAMARU

──脚本の第一印象、感想などを教えて下さい。

オーディションの時に脚本の感想を聞かれて、正直に「わからなかったです」とお伝えしたんです。そうしたら監督が「すごくシンプルですよ。(オダギリジョー演じる)治が、最後に少しだけ成長しているかもしれない、というお話です」とおっしゃって。それで、自分は考えすぎていたのかなと思ったんです。作品の意図とか意味みたいなものとかを探そうとしすぎていたのかなと。そういうことじゃなく、「わからない」という部分も含めて余白が多く、だからこそ見終わった後に感じるものが人それぞれに異なり、そのすべてが正解になる、というか。全体的にすごくセリフの量が少ない上に、ストレートでない遠回りな言葉ばかりで、だからこそ「どういう気持なんだろう、何を考えているんだろう」と思いを巡らす。そういう脚本の読み方は初めてで大きな発見だったし、「映画に触れた」ような気がしました。

©2025映画『夏の砂の上』製作委員会
©2025映画『夏の砂の上』製作委員会

──「映画に触れた」というのはどういうことか、もう少しお聞きしても?

例えば、映画の後半に大雨が降る場面があるんです。そのお芝居、二人のやり取りをオダギリさんが「あれはすごく映画的だった」とおっしゃってくれたんです。それがすごくうれしかったんですが、私もそれがすごく理解できたんです。同じ場面で「これか」とつかんだものがあったので。でも「もう1回やって」と言われたけど同じことはできなかったんです。それぐらい繊細でナマモノで。役が乗り移った、我を忘れた、というようなこととも違う、自分の意志はちゃんとあるんですけど……言ってみれば、お芝居としてのステージみたいなものが一瞬上がり、また下がった、みたいな。その一段上がったところは、オダギリさんが引き上げてくださったということだと思います。1カ月くらいの撮影の中で、そういう経験をすることができた、ほんの少しを垣間見ることができた、という感じです。

──ご自身でも、この作品を「俳優としてのなにかしら起点となる作品」とおっしゃっていますよね。

「今までの自分とは違う自分が出てきた」という感覚は、作品を通してずっとありました。完成品を試写で見たときも、自分の作品、という感じがしなかったんです。不思議な言い方ですが「この作品に出たい」と──いや、出てるんですけど、それくらい観客として見て、すごく良かったというか。

特にこの作品の自分のお芝居については、自分自身、まだよくつかめていないことが多すぎて。「自分のお芝居」じゃないような感じもしたんです。でも自分が言っている「自分のお芝居」っていうものも、すでに脚本に書かれてあったものかもしれないし。

──オーディションではどんなことをやったんですか?

優子が治に「おじちゃんの子ども死んじゃったの?」と訪ねる場面をやりました。すごい贅沢だったのは、監督から「もうちょっとこうして」という指示をいただきながら、3~4回やらせてくださったんです。オーディションではできたら何度もやりたいし、指示をもらえることもすごく大事な経験なので、すごくうれしかったんですけど──悔しいことに途中で頭がパンパンになっちゃったんです。よくわからないままとりあえずやっちゃったので、これは落ちたな、と。それがまさかの合格で。でも後でお聞きしたら、監督もプロデューサーさんも「現場で合格の雰囲気を出しすぎた。バレた」と思っていたと。結果のご連絡をなかなかいただけなかったんですが、それも意図したものだったそうで。おかげで「やったー!!!」とめちゃくちゃ喜びました(笑)。

──髙石さんは「好感度の高いいい子ちゃん」というような役をあまり演じていない印象があります。それは意識して選んでいるんですか?

作品は本当にご縁なんですが、なぜか色鮮やかなキャラクターたちが私のもとに集まってきてくれていて。でもそういう役は、やっぱりワクワクします。何ができるだろう?と考えることもすごく楽しいですし。でもそういうキャラクターを演じる一方で、どこかでずっと優子みたいな役もやりたいと思っていました。

©2025映画『夏の砂の上』製作委員会
©2025映画『夏の砂の上』製作委員会

──優子も「好感度の高いいい子ちゃん」とは違いますよね。無愛想でどこかすねたようなところがあって。彼女をどう演じようと考えましたか?

脚本を読んですごく感じたのは、優子がとても魅力的で私自身が惹かれちゃうんです。知らないうちに身についている色気とか、小さい頃から持っている「自分は1人で生きている」という感覚とか。でも大人っぽいようでいて、ある面ではすごく子どもっぽいような気もするし。それは彼女にはまだ出合ったことのない感情がたくさんあるからなんだと思うんです。長崎で治といっしょに過ごした夏の間に、少しずつそういう感情が生まれていく。「こうしたい、ああしたい」がなかった優子が、治に対しては子どもっぽさも含めて、まっすぐに気持ちを示せるようになる。それがすごく大きいことかなと。

ただ演じるうえでは「優子はこうだ」ということにとらわれるのが一番良くないなんじゃないかなとは思いました。一貫性のない人に見えてしまったらどうしようとか、いろいろ考えていた時もあったんですが、そこは怖がらずに演じようと。

お芝居をするうえで「渇き」を知っていることってすごく大事だなと思う

──優子は「何がしたいのかわからないけれど、自分が渇いているのはわかってる」という人物に見えたんですが、10代の後半から20代の前半は、誰もがそういう部分があるのではと思いました。髙石さんにはそういうものはありますか?

私は多分、潤ってるタイプだと思います(笑)。でもだから多分「渇いている人=優子」に憧れてしまうのかもしれません。実は優子よりも、彼女に恋するアルバイトの同僚、館山のことがすごく理解できるんです。たぶん彼は私と同じで、家族に愛されて育ってきたから優子に惹かれるんだと思います。それにお芝居をするうえで「渇き」を知っていることってすごく大事だなと思う部分でもあるんです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
上海国際映画祭《審査員特別賞》受賞 映画『夏の砂の上』予告編(60秒)【7.4(金)公開】
上海国際映画祭《審査員特別賞》受賞 映画『夏の砂の上』予告編(60秒)【7.4(金)公開】 thumnail
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──この作品を10年後に見たらどんなふうに思う、どんなふうに思えたらいいなと思いますか?

これから10年の間で、私もさまざまな喪失感を味わうと思うんです。その時にこの作品を見返して、作品が描く喪失感に共感を覚えるようになっていたいし、自分がその間に感じてきた喪失感を作品を通じて思い出したいです。俳優にとっては、自分が経験した感情を持ち続けられることはすごく大事なことだと思うから、それが消えてしまわないようにしたいです。10年後にこの作品を見たら、自分の中に悲しみと喜びの両方が蓄積されていることを実感できるような、そんなふうでありたいなと。

──国際的にもアジア人の俳優が注目を集めている時代です。ご自身も海外を舞台に活躍したい気持ちはありますか?

やっぱり「いつかは」とは思っていますが、そういいつつも今は、ようやく触れた日本映画にどっぷりハマってみたいなとも思っています。自分が出演した日本映画で海外に行きたいというのは、それはもうぜひ、という気持ちです。

──ちなみに海外の映画では、どんな作品が好きなんですか?

『インターステラー』とか『オッペンハイマー』とか大好きです。クリストファー・ノーラン監督が好きなのかも。『オッペンハイマー』にはだいぶ喰らいました。あまりにも衝撃的で、自分の中にずーっと残っていく作品になる気がします。


『夏の砂の上』

監督・脚本:玉田真也
原作:松⽥正隆(戯曲『夏の砂の上』)
出演:オダギリジョー 、髙⽯あかり、松たか⼦、森⼭直太朗、⾼橋⽂哉、満島ひかり、光⽯研
全国公開中

作品公式サイトを見る


ドレス¥880,000(予定価格)/プラダ(プラダ クライアントサービス)

プラダクライアントサービス tel.0120-45-1913


Photo : ZENHARU TANAKAMARU Styling : KENSHI KANEDA Hair & Makeup : AYA SUMIMOTO Text : SHIHO ATSUMI