
世界の王室のなかで、ここにきてにわかに注目を集めているのがノルウェー王室。自称シャーマンとの婚約&公務からの引退でマスコミを賑わせたマッタ・ルイーセ王女の結婚式が間もなく行われることに加えて、王太子の義理息子が逮捕されるという事件まで発生した。そこで今回は注目人物2人を中心に、ノルウェー王室の最新事情をお届けする。
“シャーマン婚”のマッタ・ルイーセ王女とは?

まずはノルウェー王室はもちろん、世界のロイヤルファミリーを見てもユニークな存在である“シャーマン婚”のマッタ・ルイーセ王女について復習したい。王女は1971年9月22日生まれで、間もなく53歳。ハーラル5世国王とソニヤ王妃の第1子として生まれたけれど、当時のノルウェー王室では男系長子継承制。女子に王位継承権を与えなかったため、“未来の女王”という肩書きは得られなかった。その2年後の1973年、将来の君主となる弟のホーコン王太子が誕生する。

ノルウェーは1990年に憲法を改正、性別にかかわらず第1子から順番に王位継承権を与える長子継承制に変わる。この改正は過去に生まれた子どもには適用されないため、王女の王位継承順位が1位になることはなかった。でも1971年から1990年に生まれた女子には「男の兄弟の次に継承権を与える」という条項が加わったため王女も王位継承者の1人に。現在はホーコン王太子、王太子の2人の子どもであるイングリッド・アレクサンドラ王女とスヴェレ・マグヌス王子に次いで、王位継承順位は4位。

ハラルド国王夫妻の教育方針は「ノルウェーの一般の子どもたちとできるだけ同じような教育をすること」。そのため王女もホーコン王太子も市立の託児所と小学校で初等教育を受けて育つ。王女は音楽とダンスに才能を発揮。合唱団に所属、さらにフルートの演奏も得意だったという。ノルウェー文化歴史博物館のフォークダンスグループに所属、馬術もたしなんでいたという運動好きの一面も持つ。

合唱、ダンス、馬術と幼い頃から身体表現に興味を持っていた王女。そのためずっと身体的なウェルビーイングに対する関心を持っていたという。そのためノルウェー国内やオランダで教育を受け、理学療法士の資格を取得。続けてホリスティックな医学の学校でも学び、2007年に代替療法の治療&教育センター「アスタルテ・エデュケーション」を設立する。王女によると彼女は幼い頃から動物や天使と交信できたという。このセンターでも天使に関するコースや死者と交信するクラスを開校していた。ちなみにアスタルテとは古代、地中海世界各地で崇められた愛と豊穣の女神の名前。あまりにもスピリチュアルなビジネスをスタートさせた王女に対して、国内からは批判と懸念の声が続出。普通の西洋医学の医療専門家はもちろん、代替医療の提唱者からも非難され言ってみれば味方はゼロ。宗教史家や神学者の間でも物議を醸したが王女は負けずにセンターをオープン。2018年まで運営を続けたというからなかなかの根性の持ち主である。
初めての結婚は2002年

プライベートでは2002年にノルウェーの作家アリ・ベーンと結婚、このときに「殿下(Her Royal Highness)」の敬称を失った。とはいえ王女の称号はそのまま保持していたので、このセンター設立時には「王女の称号も返上すべき」という意見が国民やマスコミから噴出した。

王女とアリの間には2003年に長女のモード・アンゲリカ、2005年に次女のレイア・イサドラ、2008年に三女のエマ・タルーラが誕生する。次女のレイアの名前は王女が映画『スター・ウォーズ』のファンだったことからレイア姫から命名。またイサドラは著名な舞踏家イサドラ・ダンカンからとったと王女自身が話している。
王女とアリはノルウェーやイギリスで生活、幸せそうに見える家庭を築いていたが2016年に破局、2017年に離婚する。3人の娘たちの親権は共同で保有することになった。アリは2019年のクリスマスに自殺を図り、この世を去っている。3人の娘たちと王女との関係は極めて良好。王女はインスタグラムで娘たちとのショットも披露している。
王女の新たな恋

王女はアリと破局後、アメリカ人の自称シャーマン(霊媒師)のデュレク・べレックと交際をスタート。2019年5月にインスタグラムで「同じ魂を分かち合った運命の相手と出会ったときにはそれがわかるものです。私は自分の運命の相手に出会えるという幸運に恵まれました」とコメント、デュレクと恋愛関係にあることを明らかにした。デュレクは当時グウィネス・パルトロウやニーナ・ドブレフ、セルマ・ブレアといったセレブのスピリチュアルガイドとして活躍していたけれど、ノルウェー国民はお相手が霊媒師であることにびっくり。デュレクを「胡散くさい」「詐欺師だ」と批判する声が上がり、再び「王女の称号を返上すべきだ」という意見が巻き起こった。

ノルウェー国民がデュレクを警戒したのにはそれなりの理由もあり、霊媒師という職業に対する差別とも言い切れない。その1つがデュレクの逮捕歴。報道によると彼は1991年に放火と不法侵入で有罪判決。1年服役し仮釈放されている。その後も不法侵入や無賃乗車で逮捕されたり、嫌がらせや家賃滞納、脅迫で大家から提訴されたりとトラブル満載。ちなみに大家のことは「黒魔術で殺す」と脅迫したというから怪しさ倍増。また2015年には当時婚約していた男性に暴力をふるったとして逮捕されているので、国民が懸念するのも当然といえば当然である。ちなみに2022年にはコロナを治癒する効果があるという触れ込みでメダイを販売。ノルウェーの消費者保護団体から法律違反だと訴えられ、消費者庁から販売を禁止されるという騒ぎも。
王女とデュレクは交際を公にした後「王女とシャーマン」というタイトルで講演ツアーをスタート。当然ながら国民からは「ロイヤルの立場を利用している」という批判の声がまたしても上がった。王女はそれを受け「今後は商業的な目的で“王女”の称号は使わない」と宣言。批判や懸念の声にも負けずに愛を育み、3年後の2022年6月に婚約を発表した。王女は「愛は超越し、私たちを成長させてくれます。この美しい男性と一緒に成長し続けられるのは本当に幸せです」とコメント、デュレクへの愛をためらうことなく激白。デュレクの方も「スピリチュアルなカップルとして、私たちは力を合わせて愛と受容に基づいた世界を作るために人々をサポートしていく。私たちの愛で世界を変える」とコメント。ハーラル5世国王とソニア王妃、弟のホーコン王太子とマッテ=メリット王太子妃も祝福の声明を発表していた。

しかし国王は国民からの批判に対応しなくてはいけないと思ったよう。婚約発表から3か月後に「王女は公務を放棄し、今後王室を代表することはしない」と発表した。さらに「国王は王女が引き続き王女の称号を保持することを決めた。しかし王女とその婚約者が商業活動でその称号を利用することはない」とも。ちなみに国王はその後ノルウェーの放送局のインタビューの中でこの決定について「王女の活動と王室との間に十分距離を置ける解決策に辿り着いた」とコメント。ただしデュレクについては「彼は称号やロイヤルとしての立場をビジネスに利用できない理由を理解するのに苦労していた」「アメリカ人は王室としての称号の意義がわかっていない」と呆れ半分、苦言半分のコメントも口にしていた。
王女の個性が炸裂

公務を引退したり、称号をビジネスに利用していると批判されたりと似たところがあることからマッタ=ルイーゼ王女とデュレクを「ノルウェーのヘンリー王子&メーガン妃」と呼ぶ人も少なくない(男女は逆だが)。でもマッタ=ルイーゼ王女がヘンリー王子たちと明らかに違うのはとにかく個性的で、王室のまねをしているとは絶対に言われないところ。例えばサイファー。ヘンリー王子とメーガン妃は王室時代に作ってもらったロイヤルサイファーを王室離脱後もホームページやレターヘッドに使い、物議を醸しているけれどマッタ=ルイーゼ王女はそんなことはしない。

今年7月に「私とデュレクの愛だけを象徴する素晴らしいエンブレムを発表します」と宣言、新しいサイファーを発表した。王女によると2人は前世もエジプトでカップルだったため、エジプトの表象文字ヒエログリフを使って意味を込めている。サイファーの上部を構成しているマッタのイニシャル「M」の意味は「賢いフクロウ」。地上から霊界へと続く道を導いてくれる存在だという。また下部を構成しているデュレクのイニシャル「D」には「手」という意味があり、「人生の扉を開き、踊りながら進んでいく」意味を持っている。他にも無条件の愛を表すハートや、2人の間にある永遠の絆を意味する無限などのモチーフが散りばめられている。王女がロイヤルの枠にとらわれない、桁違いの個性派であることがわかるはず。
王女とデュレクは2023年9月、結婚式の日取りを発表。2024年8月31日にノルウェーのガイランゲルにあるホテルユニオンで式を上げることを明らかにした。ガイランゲルのフィヨルドはノルウェー屈指の観光地。王女曰く「このフィヨルドはユネスコの自然遺産に指定されていて、ノルウェーの豊かな文化と美しい自然を表現している。私たちの愛を受け入れるのに完璧な場所」と説明している。王女のメッセージを受けて国王夫妻と王太子夫妻も声明を発表。結婚式に出席することを明言した。
結婚式は祖父から貰ったティアラとともに
そして予定通り8月31日(土)に結婚式を挙げた2人。雑誌『ハロー!』の報道によると親しい友人や家族350人のゲストにかこまれて愛を誓った。王女の父のハーラル5世、母のソニア妃、弟のホーコン皇太子とメッテ=マリット皇太子妃、マッタ=ルイーセ王女の3人の娘たちも出席していた。またスウェーデンのヴィクトリア皇太子とダニエル王子夫妻、カール・フィリップ王子とソフィア妃夫妻もお祝いに駆けつけたと報じられている。
王女が選んだウェディングドレスは以前からお気に入りのノルウェーのブランド、「ティナ・ステフェナック・ハーマンセン」のもの。王女の祖父であるオーラヴ5世国王から18歳の誕生日に贈られたティアラをつけていた。
新郎のデュレクはタキシードに18世紀の宮廷衣装を意識したようなカマーバンドとネクタイを着用。ちなみにタキシードのジャケットの袖には王女との新しいモノグラムが金色の糸で刺繍されていた。
結婚式の後、王女は「私たちの愛はどんな困難にも打ち勝ち、永遠に続きます」とコメント。またデュレクは「愛はあらゆるものを超越する。なぜなら愛とは私たちがこの惑星に存在する最初のエネルギーだからだ。愛はすべてに打ち勝つ」と語り、2人の愛の強さをアピールしていた。
式は平和に進んだが、実は結婚式の前には案の定物議が。王女とデュレクは式の写真を独占掲載する権利を雑誌『ハロー!』に販売した。金額は明らかになっていない。この独占掲載の件が報じられると、王室のスポークスパーソンは声明を発表。「これは他のマスコミが平等に取材し、報道する権利を拒否している」とコメントし、遺憾の意を表明した。
そのため式でロイヤルファミリーは写真撮影に参加しないのではないかという噂も。式後に公開された画像や動画の中で、国王や皇太子の姿がきちんと写っていたのはこの集合写真だけ。新郎新婦と花嫁の両親との4ショットなど親密なものは現時点では公開されていない。
逮捕された、王太子妃の息子マリウスとは?

この結婚式を控え王室に対する国民の注目が集まる中、事件が起きた。現地時間8月4日(日)にメッテ・マリット王太子妃の息子マリウス・ボルグ・ホイビー(写真右)、27歳が女性に暴行したとして逮捕された。女性は「心理的及び身体的」に攻撃され、脳震とうを起こして病院で治療を受けたという。マリウスは王太子妃がホーコン王太子と結婚する前、23歳だったときに当時交際していた男性との間にもうけた子である。男性は薬物の取引などで逮捕歴のある人物で王太子妃に子どもができたことを知ると姿をくらましてしまった。

王太子妃も当時は薬物に手を出すなど荒れた生活をしていたが、妊娠&出産をきっかけに薬物を絶って再出発。シングルマザーとしてマリウスを育てつつオスロ大学に通い始めた。そして学生時代に王太子と出会い恋に落ち、結婚した。マリウスは王子の称号や殿下の敬称、王位継承権も持っていないが王太子の義理の息子であり、ロイヤルファミリーのメンバーとして扱われていた。その彼の逮捕に国民はびっくり。王室は正式に声明は発表しなかったものの王太子は逮捕時にちょうど開催されていた五輪を観戦するためパリへ。レポーターに事件のことを聞かれると「警察が介入している時点で深刻な問題だ」とコメント。事件の詳細に次いては答えなかったが、マリウスの関与も否定しなかった。

マリウスは逮捕後30時間拘束され釈放された。その後彼は弁護士を通じて声明を発表、コカインとアルコールを摂取した状態で恋人と口論になり彼女に暴行を加えたことを認めた。またこれまでいくつかメンタルの障害を患ってきたこと、長い間薬物乱用の習慣と闘ってきたことも告白。これから依存症の治療を再開することを明言した。マリウスは声明の中で恋人と、家族であるロイヤルファミリーたちへの謝罪も表明している。