世界的なパンデミックの影響を経て一度リセットされた世界が再び大きく動き出している今こそ、人と人との関係を再構築していくことが大切となってくる。私たち一人ひとりはちっぽけでも、一緒になることで強くなれる。そして連帯する仲間は多ければ多いほどいい。

本連載のキーワードは「ティルサマンス(Tillsammans)」=「一緒に」という意味のスウェーデン語。スウェーデン在住歴20年以上のコラムニスト、ブロムベリひろみさんが“人と人のつながり”、“団結”をテーマに市民活動団体にフォーカスし、現地のリアルな声を交えてお届け。日本に住む私たちも、彼女・彼らの活動から学び、行動につなげられるヒントにしてほしい!


団体の垣根を超えた新たなつながり(再関係)でパワーアップを図る

スウェーデンの人口の2%に相当する会員数(約20万人)を持ち、設立から115年の歴史の中で数々の自然保護、環境規制制定への大きな推進力として活動してきた「スウェーデン自然保護協会」。

その協会が地球環境が激変する今、活動プラットフォームの作り方や課題への取り組みをどのように再構築して未来へつなげていこうとしているか…を探るため、5月頭に開催された同協会の全国大会に参加した。

そこで学んだのは、協会がこれまでは別の課題に対して独立した活動を行っていた他の市民活動団体との関係を深め、互いにエンパワーメントしていく新しい形だ。

20万人の会員は、市町村数にほぼ相当する全国270のローカル組織から構成される
Hiromi Blomberg
20万人の会員は、市町村数にほぼ相当する全国270のローカル組織から構成される。(写真右から)ストックホルムとヨーテボリの支部の会長、アンデシュ・トランベリさんとオスカー・ターゲソンさん。

「失くしてはならないものを守れ」というテーマのもと、全国各地から多くの人が集まったこのカンファレンスでは、PFAS問題*1から、グリーン・トランジション*2という旗印の裏で抑圧されるサーミの人々*3の権利の問題、そして…アクティビズムと市民運動の関係などが議論される一方で、大会開催地近郊の自然探索やプラスティックゴミアーティストとのゴミ拾いも企画されるなど、どのような人でも興味を持って参加できるよう幅広いプログラムが準備されていた。

a wall with art on it
Hiromi Blomberg
拾ったブラスラスティックゴミを素材にアーティスト活動を行うアミール・ファキリさんの作品が、昨年(2023年)特に顕著な活動をした会員に贈られる功労賞の副賞として授与されていた。

一口に自然保護のための組織と言っても、個々の会員の関心や特性は多岐にわたる。植物や動物、昆虫への興味から会員になっている人もいれば、トレッキング好きもいるし、森を愛してやまない人もいる。1970年代に高まった環境問題への意識から活動を始めた人が、近年の気候危機への関心から新しく会員になったフライデー・フォー・フューチャーズ世代(未来のための金曜日)*4の若者と談笑していたりする。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Det här är Naturskyddsföreningen
Det här är Naturskyddsföreningen thumnail
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「スウェーデン自然保護協会」は、これまで国や地方自治体などの行政の自然保護地区に関わる決定に大きな影響を与えてきただけでなく、スウェーデンの環境法の制定や自然保護庁の設立、またスウェーデンで広く信頼されているツバメマークのエコラベルの導入と認証作業を手掛けるなど、スウェーデンの自然と環境に関するほぼすべての主要な政治的決定に大きな影響を及ぼしてきた団体だ。

発言権を強めるには違いを乗り越え、“団結”して多数で闘う

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Jens Sølvberg
(写真左から)現在のスウェーデン自然保護協会を率いるカリン・レクセーン事務総長、ベアトリス・リンデヴァル会長。

カンファレンスで講演を聞いたり出会った人と話したりするうちに、この組織の強さは、“自然保護のテーマのもとに多くの人が違いを乗り越え共に集まるという”、数による影響力の強さにあることがわかってきた。

会費を払ってくれる会員が増えれば増えるほど、中央組織に深い知識を持った専門家をそろえることもできる。そのような科学的で信頼できる協会からの提言には、社会からの敬意や関心が集まり、メディアや政治の表舞台で取り上げられることも増える。

協会が進める各種啓蒙活動を地方レベルでも推進するために、中央組織が資料や素材を作成し、各ローカルグループが使えるようにサポートしている。
Hiromi Blomberg
協会が進める各種啓蒙活動を地方レベルでも推進するために、中央組織が資料や素材を作成し、各ローカルグループが使えるようにサポートしている。

「スウェーデン自然保護協会」は地元密着のローカルグループに加え、地方組織、そして全体方針を決め各グループをリードしサポートする中央の執行部で構成されている。大会では外部の専門家を含めさまざまな立場の人たちのチャレンジやその成果を聞くことができたが、その中でもトラノース(Tranås=スウェーデン中部に位置する)という小さな町のローカルグループが、他の活動団体と連動して行った、新しい市民運動の形の話が興味深かった。

全国の市町村別の二酸化炭素排出量ランキングでよい成績を取っていなかったトラノースでは、その問題を改善しようと「スウェーデン自然保護協会」の人たちが中心となって、同市の政治家に働きかけを行ったが、当初は望むような反応や注目を得ることができなかったという。

違う組織が結びつきを強めるには対話を深めること

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Hiromi Blomberg
(写真左から)トラノースでの活動について発表するスザンネ・ショーブロムさん、メルタ・スヴェードさん。

そこで、同じく気候危機への懸念を表明しているスウェーデン赤十字社やスウェーデン教会などの地元支部と連動して、街の広場での共同集会を企画して一緒に行動することで徐々に住民の、そして市会議員たちの気候問題への関心を高め、対話を深める基盤作りを進めていった。

「スウェーデン自然保護協会」も、スウェーデン赤十字社もスウェーデン教会もそれぞれ熱心な会員のいる、スウェーデンに根づき社会から信頼を得ている組織だが、それらの組織が同じ目的で結びつき行動を共にすることで活動はさらに力強いものとなる。

同様の例は、別途参加した「悪意のある言動や嫌がらせなどの攻撃にどう対処するか」というテーマのワークショップでも事例としてあがっていた。

グレタ・トゥーンベリさんへの攻撃に顕著(けんちょ)に見られるように、気候や環境に関わる活動も残念ながら嫌がらせや中傷とは無縁ではない。ワークショップではこのような攻撃はあるものだと最初から考え、ネット空間や実際のデモや集会の場所で起こりそうな危機的な状況を想定し、その対応策を考えておくことの重要性が強調された。ワークショップではありそうなケースを題材にして、グループに分かれ議論し、その準備を行った。

声を上げることをやめてはいけない!

「声をあげることをやめない」と題された「悪意のある言動や嫌がらせなどの攻撃にどう対処するか」というテーマのワークショップから
Hiromi Blomberg
「声をあげることをやめない」と題された「悪意のある言動や嫌がらせなどの攻撃にどう対処するか」というテーマのワークショップから。

また同じような誹謗中傷などの攻撃を受けがちな、ジェンダー平等に関する発信をする団体と、LGBTQ+の権利のために活動する他の市民活動団体が連携し、情報交換をして事例を学び合い対処策を改善していく…という一見つながりがなさそうに見える異なる市民団体間の新しい共闘関係が、このワークショップでも紹介された。

来月(2024年6月)に欧州議会の議員選挙が予定されている「スウェーデン自然保護協会」は、スウェーデンの有権者が気候問題のためによい議員を選べるように、各政党の政策などを精査し情報提供をすることに力を入れている。その他にも飲料水や化粧品といった身近なものからPFAS問題を取り上げていくことや、グリーン・トランジションで注目が集まるスウェーデンでの新たな鉱山開発計画に一石を投じていくことも喫緊(さっきん)の課題だ。

pfas問題
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写真のモニターに表示されているのは、PFAS問題に関する講演で紹介されていた調査結果。赤はPFAS問題による“汚染が確認されている”地域で、青は“汚染されていると考えられている”地域。スウェーデンはまだPFAS問題による汚染が確認されていないが、汚染されている“可能性の高い”地区が多いことは予測できる。

先に取り上げた、悪意や嫌がらせにどう立ち向かっていくかについてのワークショップにつけられたタイトルは「声を上げることをやめない」だった。声を上げることを恐れないためにも、人と人とのつながり(再構築)を大切にしながら、そして細かい違いは包括し多数となって活動していくことの強さを感じた3日間だった。

[脚注]
*1 PFAS…4730種を超える有機フッ素化合物の総称で、自然界で分解しにくく人への毒性も指摘されている物質

*2 グリーン・トランジション…環境配慮や持続可能性のある社会への移行すること

*3サーミ人…ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシア間の国境が引かれる前からトナカイの放牧をしながら暮らしてきた先住民

*4フライデー・フォー・フューチャー(未来のための金曜日)…2018年8月に、当時15歳であったスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが、スウェーデン議会前に一人で座り込み「気候のための学校ストライキ」をしたことをきっかけに広まった世界的な環境保護運動。毎週金曜日に開催されていたため、このような名前がつけられた

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