美しい音が美肌を作る!？　サウンドヒーリングが美容にもたらす効果を専門家が解説

打ち寄せる波音やワインを飲み干す音、しとしと降る雨の音。ASMRには、私たちの脳波を瞬間的にくつろいだ状態にさせる力がある。

しかし直近の美容トレンドでは、音波がものの考え方や気分を変えるだけでなく、肌を活性化させることができると考えられている。

もはや、嗅覚（神経への作用を高める香りの美容液）や触覚（ハイテク機器によるツボ押し）だけが、肌の知覚において主導権を握るのは難しくなってきている。肌と心のつながりを求める人々は、肌の健康バランスをもたらすためのツールとして音に目を向け始めているのだ。

しかし、ここで疑問となるのは、音はコルチゾールを減少させ、コラーゲンの分泌を促進させ、さらには肌を輝かせることができる万能のヒーローになりうるのか、ということ。あるいは、それはあまりにも出来すぎた話なのだろうか。

サウンドセラピーには、音を用いた多くのトリートメントがある。例えば、サウンドバス、ゴング、チャイム、音叉などだ。これらは周波数や音波が持つ作用を用いて、心身をリラックスさせることを目的としている。

「サウンドセラピーは、私たちの神経を落ち着かせ、調整することで効果を発揮します」と話すのは、実践型のサウンドセラピストで、フォロワー達には“サウンドセラピスト”として知られているファルザナだ。

「音は迷走神経を刺激します。この神経は、脳神経のひとつで、私たちの睡眠や消化のシステムの大部分を形成しています」

「サウンドセラピーは、同調運動と呼ばれるプロセスを経て、脳波の働きをスローダウンさせ、精神的にスイッチオフした状態にします。そうすることで心拍数と呼吸の回数を下げ、ストレスホルモンであるコルチゾールを減らすだけでなく、ストレスのかかった状況下をうまく管理できるようになるのです」と、彼女は説明する。

安らぎを与える瞑想においても、その研究結果が続々と報告されている。ある研究では、チベタンボウルを使用した瞑想がストレスレベルを低下させたと報告されている。

一方ドイツのボン大学の研究でも、両耳で周波数の異なる音を聞き、ヒーリング効果をもたらすシータ波を引き起こす“バイノーラルビート”が、怒りを和らげたとしている。

このサウンドセラピーがどの程度真皮に作用するのか懐疑的に思っているのであれば、そのストレスもまた、肌の上で猛威を振るうと専門家は考える。

「肌は最大の臓器で、ストレスや疲れ、あるいは睡眠不足や栄養不足のときに、それが顔に現れます」と話すのは、肌の専門家で“ブラッデンメソッド”の創始者であるサラ・ブラッデン。

「コルチゾールというホルモンのレベルが上がると、皮脂の分泌が増えたり、ニキビができやすくなったりと、肌にさまざまな影響をもたらします」と、皮膚専門医で栄養学者でもあるティビ・マルタプ博士も付け加える。

サウンドセラピーは、コルチゾールの分泌を下げることに効果が証明されていることから、肌の健康にも大きな影響を持つ可能性があると、両者は考える。

「ストレスによって起こる炎症もまた、肌の湿疹や乾癬、ニキビなどの原因になり得ます」と、ファルザナ。

「肉体は切迫した危機と闘う（闘争・逃避反応）と、エネルギーを使います。肌の健康については、優先順位が低くなるのです」と彼女は付け加える。

しかし、それを裏付ける証拠はあるのだろうか。

「私たちは、心を落ち着かせる音楽やリズミックなビート、詠唱、あるいは自然の音を積極的に使うことで、神経システムをリセットし、ストレスを軽減させたり、心に静けさをもたらしたりできるのです」と話すのは、神経科学者で、作家、講演などで活躍するタラ・スワート博士。

しかし、肌と音に関する確実な証拠となると、そう簡単に見つけることはできない。

皮膚科専門医たちのなかには、その概念を一蹴する者もいる。リスニングによってシワが改善するというのは非科学的なように見える一方で、皮膚疾患のほとんどが、ストレスや怒りと関係していることを考えると、体全体をケアすることで、目に見える結果が得られるのではないだろうか。

肌と精神が繋がっているという“スキン マインド コネクション”– に賛成する人たちは、サウンドヒーリングが、スキンケアにおいて心強い味方になると主張するだろう。

「ストレスが肌に与える影響は今や、コラーゲンやエラスチン、水分量の減少、炎症、そして敏感肌などの原因となることが分かっています」と、「デ マミエール」の創業者、アニー・デ・マミエールは付け加える。

「いくつかの研究では、マインドフルネスがストレスを軽減し、ニキビなどのさまざまのトラブルを改善することができると証明されています」と彼女は話す。

「聞くことや触れること、味わうこと、香りを嗅ぐこと、そして見るものが、あなたの心の状態にインパクトを与えます。そしてそれは、肌にも反映されるのです」と、話すのは「タッチャ」のCMOカイリーン・カンポス。それは、スキンケアブランドが、音に着目して肌と心の関係を解き明かそうとする、数ある理由のうちの一つだ。

マイクロバイオーム（微生物叢）に優しい美容液、“インディゴ オーバーナイト リペア トリートメント”と共に、スキンケアにインスパイアされたサウンドスケープ（音風景）をつくり出す、“インディゴ カーミング リチュアル”は、音楽事務所とともに、美容液に含まれるインディゴが発する振動や信号を特別な技術を用いて録音され、つくられた。

50人を対象とした研究では、参加者のストレスレベルを評価する脳のシータ波と、リラックスレベルを示すアルファ波を測定し、その両方が減少していることが判明した。

聞き耳を立てているのは彼らだけではない。英国をベースとする美容ブランド、「クロリス」もまた、CBDを配合したスキンケアの効果を高めるためにサウンドスケープを作成した。スキンケアルーティンと共に活用することで美容の儀式を生み出すというアイディアだ。

もうひとつ、感覚に訴えるブランドとして「デ マミエール」が挙げられる。

このブランドの最新作は、サウンドメディテーションの専門家であるクリス・コナーが開発した、ニューロソニック３Dサウンドスケープを利用するプラットフォーム「OPO」とのコラボレーションによるものだ。

「ニューロソニック3Dサウンドスケープを使用することで、音と香りの相乗的な組み合わせを作り出します。振動の調整を促し、リラクゼーションをもたらします」とマミエールは説明する。

「修復効果のあるブレンドオイルと共に使用することで、あらゆる人たちの精神的、肉体的、精神的な健康をサポートし、それが肌にポジティブな影響を与えるのです」

ファルザナは、現代人が音、美容の習慣、そしてセルフヒーリングの仕組みと再び結びつくようになれば、それがスキンケアのルーティンにまで浸透していくのは必然だろうと考えている。

「私にとって、肌に栄養を与えるトリートメントを、多角的かつマインドフルな方法に変えるということは、非常に理にかなっているのです」と彼女は言う。

今では、“クリア スキン サウンド ヒーリング”という言葉は、TikTokで５億回以上再生されている。

「人々は一般的に、メンタルヘルスとウエルビーイングを優先しており、スキンケアの習慣は確実にその一部であることは確かです」とカンポス。

そして、それはスキンケアの分野にに留まらない。音を使ったトリートメントの新しい方法は、サロンやスパでも定着しつつある。ハロッズのウェルネスクリニックでは、施術者のハリエット・エミリーが率いるサウンドヒーリングが最近、その豪華なメニューに加わった。

また、ロンドンを拠点に活動するリフレクソロジスト、パオロ・ライは、ホリスティックとモダンを融合させたトリートメントメニューに、サウンドヒーリングフェイシャルを新たに加えた。

「サウンドヒーリング フェイシャルは、マッサージテクニックと、シンギングボウルや音叉などのサウンドヒーリングツールを用いて行います。また、音の振動を帯びたオイルやクリームと組み合わせます」と、ライは説明する。

つまるところサウンドセラピーは、肌にメガワットな輝きをもたらすための片道切符なのだろうか。残念ながら、サウンドセラピーは決して万能ではないし、肌の健康を改善するための唯一の解決策でもない。

しかし、音を一緒に使うことによって、自律神経の闘争・逃避反応を調整することができ、ストレスを減少させることができる。それによって結果的に、肌の状態をよくすることに役立つのだ。

最も重要なのは、心身全体を通して、マインドフルネスな時間を持つこと、あるいは心地よい音に囲まれた美容の習慣を、スキンケアルーティンに加えることだといえるだろう。

Realization :AMELIA BELL 、Translation & Text : Nathalie Lima KONISHI