ピクシーカット
Rebecca Jane Hill

近年続くショートヘアブームは、2025年に入ってさらに加速している。きっかけのひとつは、ドラマ『ホワイト ロータス』に出演したレスリー・ビブが披露した、本人いわく “ちょっと毒気のあるリトルボブ(c*nty little bob)”。その振り切ったスタイルが“ボブはもっと短くもっと大胆に”という風潮を押し上げた。同時にアイリス・ロウやレネー・ゼルウィガーなどが相次いで披露した多彩なピクシーカットが、私たちのベリーショート熱に拍車をかけている。

ピクシーカット
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「ピンタレストUK」の検索データでもその熱は顕著で、ロングピクシーカットが前年比225%増、シェープドピクシーカットが65%増、ピクシーカット全般でも55%増と急上昇。ここ数年、切りっぱなしのブラントボブを定番にしていたUK版『ELLE』エディターのレベッカも、いよいよショートヘアの次なるステージに踏み出す準備ができたのだとか。

ピクシーカット
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「当初は少し長さを残したソフトなピクシー、いわばマレットヘアを組み合わせたゆるめのピクシーカットを検討していました。ネットで人気のスタイルなので、ヘアサロン『ハーシェションズ ベルグラヴィア』の予約に備え、SNSで動画や画像を集めてイメージを固めていました」

「ところが大断髪の前日の夜、友人に計画を打ち明けると返ってきたのは『中途半端はやめた方がいい。やるなら思い切って切っちゃいなよ』のアドバイス。その言葉に背中を押され、2人でグーグル画像検索を開き、エマ・ストーン、ウィノナ・ライダー、ミア・ファローのタイトに刈り込まれた名作ピクシーを次々と保存しました」

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「覚悟は固まっていたものの、心の片隅には小さな不安が残っていました。ベリーショートのピクシーカットは本当に私に似合うのだろうか。カメラロールに保存したウィノナ・ライダーやミア・ファローは映画界のアイコン。一般人の私が同じスタイルを選んで、果たしてサマになるのか。それにいちばん怖いのは“お母さんっぽい仕上がり”にならないかという点。ショートヘアは、クールさと野暮ったさが紙一重。微妙な境界線があると感じていました」

「そんな迷いを抱えながらヘアサロンに向かいました。今回の担当スタイリストは、21年間ハサミを握るベテラン、ライアン・ウィルクス。カメラロールを一緒にスクロールしていた彼は、ウィノナ・ライダーの若い頃の写真で指を止めた。顔周りをキリッと縁取る黒髪ピクシーカットで、『これがあなたに一番ハマる』と断言。いよいよ本番です」

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「その週、ウィルクスはすでに何人も大胆なヘアチェンジを手がけたと話していました。『みんなこぞって短くしているよ』と笑う彼は、ピクシーカットへの流れはボブ人気の次のステップだと分析しています。『もうみんな短くする自信がついてきているんだよね』と言い、トレンドよりも自分らしさを重視する空気感がヘアにも広がっていると続けました。それは今のファッションシーンとも呼応するムードなのだと感じました」

「私のボブはあごにかかる程度の長さだったので、ポニーテールをザクザク切り落とすような劇的シーンとは無縁でした。それでも、あと数センチ髪があるだけで、まるでお守りの毛布をまとっているような安心感があるもです。短くするうえで心配だったのは、女性らしさが損なわれてしまわないかということ。90年代育ちの私は『アメリカズ・ネクスト・トップモデル』を観て育ちましたが、出場者たちは“頂点を目指す”という名目で、しばしば信じられないほど過激なイメチェンを強いられていたものです。少年のように刈り込まれた髪型で泣き出したり、番組を飛び出したりする姿も記憶に残っています」

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Rebecca Jane Hill before her pixie cut transformation

「幸いなことに、サロンチェアに座っている間、そうした不安は一切湧きませんでした。彼はハサミを動かすたびに『今どこをどう整えているか、なぜその必要があるのか』を丁寧に説明してくれる。とくに彼が、“魔法の杖”と呼ぶレザーを取り出し、毛量をやわらかく削いで丸みが出ないように調整する場面では、その理由と効果を噛み砕いて教えてくれました」

ピクシーカット
Rebecca Jane Hill

「ウィルクスは『ママっぽく見える最大の要因は、実はボリュームです』と。2000年代以降の技術進化によって、ショートヘアでも余計なふくらみを抑えてシャープに仕上げるワザが格段に洗練されたと教えてくれました。そしてカラーリストのハンナ・ゲイルが私の髪をトーンチェンジ。地毛のダークブラウンをほとんど黒に近い、ツヤ感たっぷりのシェードへ染め上げ、カットラインが一層映えるようにしてくれました」

「最後はいよいよスタイリングです。ウィルクスいわく、ピクシーカットは『実はとても応用が利くスタイル』とのこと。ジェルでオールバックにしたり片側に流したり、全体を前に寄せたり。今回は前に押し出すアレンジでいくことにしました」

「前髪を跡がつかないクリップで留めたあと、低温のドライヤーとディフューザーで自然乾燥風に仕上げます。最後に『ハーシェションズ』“オールモスト エブリシング クリーム”をなじませると、髪はふわりと軽い質感に。鏡の中で輝く自分を見て、思わず笑みがこぼれました。『まるで別人みたい。赤リップとの相性も完璧。まさに映画スターね!』と、スタイリストが声を掛けてくれる。そう、まさに狙い通りの仕上がり。ミッションは大成功でした」

ピクシーカット
Rebecca Jane Hill

「まるで別人のような姿になったのに、不思議と自分自身では違和感がありません。カットがあまりにも自然で、ずっと前からこの髪型でいたかのようにしっくり馴染んだのです。むしろ、もっと早く挑戦しておけばよかったとさえ思いました」

「こんな気持ちでサロンを後にすることは滅多にありません。それこそがウィルクスの卓越した腕前を物語っています。彼にとってヘアカットは“彫刻づくり”。単に長さを詰めただけではなく、私の骨格や雰囲気に合わせて髪そのものを造形してくれました。参考画像をそのままコピーするのではなく、私の顔立ちに合わせた一点もののスタイルを生み出してくれたのです」

「もしショートヘアに踏み切ろうか迷っているなら、ぜひ覚えておいてください。カウンセリングから仕上げまで、こうした丁寧なプロセスこそ理想的な体験です。ウィルクスは『この夏はピクシーカットが主役になる』と断言しましたが、このトレンドを私自身、全力で後押ししたい気分です」

ピクシーカットにする前に知っておきたい7つのポイント

イメージ写真をいくつか用意して「こんな仕上がりにしたい/これは避けたい」という希望を具体的に伝えよう。

スタイリストとは遠慮せず綿密に相談し、髪質や骨格をふまえた提案を受けること。

ピクシーは質感が命。毛流れやツヤ感がスタイルの完成度を左右する。

丸いキノコ風カットにならないよう適度に量を削いで立体感を調整するのが肝心だ。

基本は洗って乾かすだけで決まるローメンテナンスヘア。毎朝のセットが驚くほどラクになる。

ジェルでタイトにしたり前髪を下ろしたりと小さなアレンジの違いが大きく印象を変える。スタイリング実験を楽しんで。

何より大切なのは勇気。大丈夫、思い切ってカットしても髪は必ず伸びてくるのだから。

Realization : Rebecca Jane Hill、Translation & Text : Nathalie Lima KONISHI

出典:ELLE UK